THE
MASKEDRIDERREBORN

第二章 第三章

                序にかえて
 突如、爆音が新宿のビル街にこだました。
 人々が振り返り、音の主を見る。白のボディーに朱を引いた、巨大なバイクだった。だが、それよりもその乗り
手である者の方に人々は凝視した。
 それは鼻下まである薄緑色のチタン色の髑髏型のヘルメットに、爛々と輝く真紅の瞳、体もヘルメットと同じく
チタン色。そしてその体から伸びる腕は、まるで黒い鉄の塊のようだ。
 その異形ともいえる男が、人々の闊歩する街中を、爆音を唸らせながら、猛スピードで疾走する。
 ふと、かん高いサイレンの音が響き、男の後からサイレンをけたたましく鳴らしたパトカーが列をなして男を追
うように疾走する。
 その異様な光景に人々はただ凝視していた。

                 * 

『人が、誰にも知られず一人ぼっちで、しかも、冷たい水の中死んでゆくのはどういう気分だろう?』
2月XX日 本郷猛 警部(二階級特進) ○○山、山中の小川の川下にて、死体にて発見。
『あいつはそれを最後に味わい、この世を去って逝った』
死因は、転倒時に後頭部強による、脳挫傷と判明。
『誰にも知られず、一人で、消えるように死んでいった、その最後の言葉も誰にも伝えずに』
医師の見解と備考:発見時には死後2日が経過していたものの、真冬の山中により、保存状態は非常に良好だった。 
『・・・・・俺は許さない!あいつを殺した奴らも、あいつを無視し続けた上司も!!』


THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第一話 疾風
 耳をつんざく轟音を撒き散らしながら、奇怪な男が白い巨大なバイクに跨り疾駆する。  それを追う警察車両の群れ。 一見異様としか言いようのない光景に、人々は唖然とする。  だが、その光景を見つめていたのは人々だけではない、その光景を上空から見つめる者がいた。  いや、人ではない、それは黒く丸い七つの目と八つの手足、巨大な卵のような尾を持った3メトール程の異形な 姿。 そう、それはまさに巨大な蜘蛛。その異形の生物が、ビルの合間を陽光に反射する細い糸を残し、ジグザクに高速 で移動する。  だが、様子がおかしい、この化け物は監視しているというよりは、引き離すように、素早く複雑に動いているよ うにも見える。  そう、こいつは実際には眼下にいるバイクの男から逃げんとしているのだ。  事の起こりは3時間前にさかのぼる。            *  某ホテル、最上階2205号ファーストスイートAM9:12 「ぐっ!」と、小さな呻きをもらして、中年後半の男が瞳を剥いたまま逝った。  隣で寝ていた女は、声もあげずに逝った。  天井に張り付いた巨大蜘蛛は全身の触毛で、呼吸が切れているのを確認すると小さな刺のついた細い触手を口に 戻した。  ずるうと、音もなく床にゆっくりと着地する。  八つの腕足の爪で、最小の接地面を保ちながら大きな卵形の尾腹を持ち上げて、四つ締めの糸口から伸びた無色 透明の糸を、無音で、素早く体内に巻き取った。  後ろへと、楕円形に伸びた膨らみのある薄い頭を、ぐりっと、横に向け、後ろの四足で上体を持ち上げて、死骸 になった人間を見つめ思う、―人は何故、こんなにも死を拒絶しようとするのだろう?―と。  見れば死骸は死後硬直をはじめ、末端四肢が微妙に蠢く。   腕足の爪裏にある、人のそれに似た4本の指を、死骸にかざしてさらに思う、―・・・それも、人ゆえか・・・ ―と、その時、バァッキンと、鉄の折れる音が部屋前の廊下のほうでした。 巨大蜘蛛はざわと、全身の触毛を逆立たせ、空気の流れに全神経を集中する。 ぎりぎりと、頭を右に向けて、ベットルームの入り口を凝視した。  触毛の右側が、わずかに動き、誰かドアの前にいることを伝える。 ―何者か?―と思いながら、八つの腕足をおろし、大きな尾腹を持ち上げて糸口を開き、音もなく不可視の糸を 天井に飛ばし付け、全神経を集中させた。  すぅーと、内側にドアが開かれるが、誰もいない。  肉体をビクンと、震わせるが、まったく気配の消えた事に困惑し、硬直してしまう。  ―なぜ誰もいない、さっきまで確かに人の気配はドアの向こうからしていた、だが、掻き消えるように消えた? ばかな、下から上まで空気の流れを調べた・・・・下から?・・・・・はっ!!まさか!?―そう心の中で叫ぶと、 頭をぐるんと後ろに回した。 「ギッ!!」と、思わず吸気音を口からもらした大蜘蛛が見たのは、天井に飛ばしつけた、不可視の糸、しかも捕 獲糸ではなく登り糸をつかんで、巨大な真紅の瞳で見下ろしている髑髏仮面の男がいた。  その真紅の瞳が、薄暗いカーテンの閉まったベットルームでカッと、光る。  大蜘蛛はゾクッと体を震わせると、頭を正面に向け糸を断ち切り、カーテンの閉まった大窓に飛び込んだ。  パンと、弾ける音の後にガシャンッとガラスの割れる音がし、大蜘蛛は空に身を投げ出した。そして、200メ ートルも離れたビルの屋上にその不可視の糸を飛ばした。  見事手すりに糸が絡まると、大蜘蛛は頭を振り、さっきのまでいたホテルの部屋を見返した。  カーテンが風にはためき、キラキラと陽光に反射するガラスを撒き散らすと、カーテンが揺らめき、髑髏男が飛 び出してきた。 ギョッと空中で身動ぎする大蜘蛛。身を反らし、拳に力を溜める髑髏男。 パンッと破裂音がすると、突き出された髑髏男の拳が、大蜘蛛の糸を断ち切った。すかさず大蜘蛛はホテルの方 に糸を飛ばし、バランスを取る。  そして髑髏男は約100メートル以上下の地面に落下して行った。 が、高速で落ちる髑髏男は、体を回転させ、バランスを取り、ホテル前の植え込みの最も高い木を掴み、減速さ せて着地した。  折れた木を投げ捨て、アスファルトに足をめり込ませたままホテルにしがみついた大蜘蛛を見上げる。 大蜘蛛は再び、ゾクッと体を震わせる。するとその時、ファンファンとけたたましいサイレン音が響いた。  髑髏男は音のほうを一瞥すると、路上に停めてあった白い大きなバイクに跨り、また大蜘蛛を見つめる。  大蜘蛛は来るっ!と感じ、糸を他のビルに飛ばし、渡たる。  髑髏男はその様子を見ると、バイクのエンジンをスタートさせた、激しい爆音にも似たエキゾスソノートスがビ ルの谷間にこだまする。  背筋を張らせながら、大蜘蛛はビル間を飛び渡る。髑髏男はそれを追うようにバイクを走らせた。  その道の向こうから、パトカーが赤いランプを点し、向かってくるがそれを跳び避ける。  ギギィと音を鳴らし、パトカーがスリップする。 着地の際も、髑髏男は大蜘蛛から目を逸らさない。 その異様な気を背筋に感じながら、大蜘蛛は逃げるようにビルの合間を縫う。  髑髏男のバイクの白いカウルに、いつの間にか、煌々と燃える炎のような模様が浮かび上がていた。 *  鮮やかな朱色の炎に染まった、真っ白なバイクと、それに跨る不気味な髑髏男。 心音が早鐘のように鳴り響く。  大蜘蛛は考えていた―こいつは何者だ―と。  その考えに思考をめぐらせることも出来ぬ、この超重圧の気。あの髑髏男から流れてくる物だ。  そんな思考をめぐらせ、髑髏男を一瞥し、再び頭を前に向けると、わずかに身じろいだ。  何と、後ビルを一つ越えたところに広い十字路が待ち構えていた。  ―しまった!!―そんな後悔の念を心で叫び、大蜘蛛はビルを越え、十字路の真ん中の空中に飛び出ると、30 0メートルはあろうかという向こう側のビルまで不可視の糸を飛ばす。  糸はビルの屋上に張り付いたが、空中に投げ出されたままの大蜘蛛に伸びる影があった。  しかも、空に。  カッと、真紅の瞳が光った。  十字路にさしかかる道の出口。  爛々と大きな真紅の瞳を灯した髑髏男は、ハンドルから手を離すと、消えた。  いや、跳んだのだ高く、遠く。  動きが滞りはじめた大蜘蛛にその2メートル近い体躯が襲い掛かる。そして、ゴンと、鈍い音を鳴らして、その 楕円形に伸びた薄い頭がわずかにへこみ、不可視の糸が断ち切られた。  30メートル近い上空から叩き落される大蜘蛛に、パトカーの群れが止まりきれずにぶつかる。 「ギイィィ!!」と、叫ぶように激しい吸気音を洩らし、大蜘蛛は地面に落ちた。 パトカーの群れがその大蜘蛛を取り囲み、それらの前に朱の炎を灯した白いバイクが停まる。  そして、彼等の眼前に、髑髏男が降り立った。 第一話        疾風 了
 ゆっくりと彼女は歩む。
 胸元に抱えた、初夏の花を墓石の前で分ける。香がひろがる。
 花刺に、香をたたえた花を刺し、スッとひざまずく。
 ゆっくりと、その黒目がちの大きな瞳をつぶる。
  しばらくして、ゆっくり瞳を開け立ち上がり、墓地の出口に向きなおし、歩きだした。

 一台の、白銀色の車が滑るように道を走る。
 滝和哉は隣に座る双葉愛子をチラッと見ると、パワーウィンドを上げタバコに火をつけた。
 薄灰色の煙が流れる。
「・・・・・なあ・・あいつは・・・本郷は、なんて言っていた?」

THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第二話 残されし者
 ゾクリと背筋が強張った。  煌々と灯る真紅の瞳が見つめている。  脆弱な武器と肉体しか持たぬ、警察官の集団など、ものの数秒で皆殺しにでも出来るのだが、目の前に立つこの 髑髏男は違う。  埋め込められた野性の遺伝子が言う、『こいつは危険だ!』と。  ジリジリと来るプレッシャーの波を、避けるようにあとずさる。  こんな騙しが利くようには見えないが、まだ気付いてはいない。  あとずさりながらゆっくりと姿勢を整え、腹の中に大量の糸を生産している。  この量の糸ならば、この髑髏男も断ち切ることは出来ないだろ、後はタイミングの問題だ。  そう考えながら、何度も頭の中でシュミレートする。 チャンスは一回、タイミングは一瞬、もし、しくじれば死。  心臓を無理やり落ち着かせる。  奴には心音すら聞こえてるはずだ。  ピリッ。  空気が変わった。  脂汗に顔を濡らした警官隊も感じたらしい。  パンッと、乾いた銃声が響いた。         * いったい何が起こったのだろう、薄れ行く最後の意識の中で、見ていたのは弾け跳んだ自分の腕足だった。 おそらく首から下はもう何もない。  創られた異形の存在だからなのか、それとも死ぬ者は皆そうなのか、なかなか消えない意識、いつまでも続く痛 みと喪失感、そして寂しさ。  本当は一瞬なのかもしれない、しかし、今の私には酷く長く感じる。  髑髏男の瞳に似た、真紅の鮮血が、地を染めているのに気づく。 自らのモノだろう。  思い出した、何が起こったのか。  あの髑髏男はどこだ?あいつに一つ言わなければいけない。  礼を・・・・一言礼を言わなければいけない、この苦しみしかない世界から、解放してくれたのだから。  今は、痛みすら心地良く感じる。 喪失感はあるがそれもいい、失うモノがあることに気づいた、それだけでも礼に値する。  だけど、ただ、酷く寂しい。  一瞬。  弾丸が、髑髏男の鼻先をかすめる。  大蜘蛛は、体を後ろに返し、大量の糸を糸口より吐き出す。  その量は不可視の糸が、まとまり、わずかに白く濁った形を見せるほどだ。 糸の放出スピードは弾丸よりも速く、弾丸がまだ髑髏男の鼻先を通過する寸前にもう、髑髏男の眼前に糸の先が 迫っていた。  が、 糸の塊が落ちたのは、白いパトカーのボンネットだ。  糸の塊の中には誰もいない。  大蜘蛛は体を向きかえすと驚愕の姿勢をとる。  全身の触毛が逆立つと、視線を空に向けた。  そこには、太陽を背に、真紅の巨大な瞳を灯らせた髑髏男のシルエットがあった。 死を直感した。  髑髏男が降ってくる。  いやにゆっくりと見えるが、対処は出来ない。  自分の動きはそれよりもずっと、遅い。 キィィンと、金きり音がして、髑髏男の突き出された右足のシルエットがぼやける。  微細強振動装置の発動音が、鋭敏に尖らせた触毛を伝わり全身に響くと、あきらめに似た感覚が脳裏に芽生える。 そして、  最初は重さだった。  押しつぶすような重圧が背中から全身に伝わり、八本の腕足が悲鳴をあげしなるが、腕足が折れ飛ぶ前に背中か らピシッと、ひび割れる音が走り、鮮血が飛びはじめる。 キイイィィィィッ!! その吸気音は断末魔の叫びになった。  腕足が押し負け、胴体が地に付くほどしなり、背中一面がひび割れると、パァンッと、破裂音とともに、全身が 弾け飛んだ。  髑髏男の瞳に似た、真紅の鮮血とともに。 *  髑髏男は一滴も返り血を浴びずに、立ち去っていった。  誰もが唖然としていた、警官隊は止めることを忘れ、髑髏男が走り去って行くのを見つめているだけだった。  その異様な姿はまさに、殺戮の死神のよう。 彼の乗るバイクの音が消えるまで、誰も動くことは出来なかった。                   *  質問はその場しのぎでしかなった。  回答はない、そんなこと、わかりきっていた。 滝は、吸い終えたタバコを、シガーポケットに入れる。 漂う煙を手でひとしきり払うと、パワーウインドを閉めた。  答えなど返ってくるはずもない、死人に声はないのだ。 「・・・・・・・・・・和ちゃんは、何か聞こえた?」  車を道わきに停める。 「いや、何も」  そう言い、「・・・死人は喋らないさ」と、間をおいて答えた。  またアクセルを踏む。 ゆっくりと道に戻り、車はすべり走る。 「・・・そう、でも何も言わないのなら、死んでないかもね」 曇った笑顔でそう言う愛子に、すこし、心が強張った。「あいつは、誰にも知られず死んだんだよ、消えるよう にな」  気づけば、そんなことを呟きながら、アクセルを強く踏んでいた。 第二話     残されし者 了

 木々に囲まれるように、一軒の朽ち果てた工場がある。
 もっとも、工場といっても、切り倒された木を一時的に保管するだけの小さなものだ。
 しかも、使われなくなって長いらしく、もはや下に続くアスファルトの道も完全にひび割れ、草が茂り、原形を
とどめてはいない。
 半ば廃屋と化した、その工場の前に一人の男がいた。
 彼はおもむろに着ていた、大きな皮のライダースジャンパーを脱ぎ、小脇に停めた白いバイクの後部ポケットに
押し込むと、かわりに、そのポケットから薄緑のチタン色に輝く、まあるい金属製の《マスク》をすっぽりと被っ
た。
 その仮面は、真紅の巨大な双眸が光る、髑髏の様だった。


THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第三話 木々に囲まれて
「あ?あれは誰だ?」  まだ若い、機動隊員が廃屋に入る髑髏男を双眼鏡ごしに、見てそう言うと、先輩らしき隊員がその双眼鏡を取り、 同じく髑髏男を見た。 「ああ〜?なんだあいつの、あの格好?どっかのバカか?」  そう言うと脇に伏せているさっきの後輩隊員に、「とりあえず隊長達に報告だ、お前は本部に行ってこい」そう 言うと、若い隊員は中腰の姿勢で敬礼し、足早にその場を去って行った。  都心から離れた某都内の国道沿いに、やや深い森林地帯がある。  ふっと、一人の機動隊員が道をこえ、反対側の林のなかに入って行った。  その林のやや奥に、白いテントが貼られていた。学校の運動会で見るような、屋根しかない大きなものだ。  「隊長!!報告します。作戦目的地前に不信な男が」  若い機動隊員は、テントに辿り着くなり、やや大柄なメガネを掛けた機動隊員にそう言い、敬礼をする。 「敬礼が先だぞ、加藤」  メガネの隊長がそう言い、若いその隊員は苦笑いを浮かべ頭を下げ謝る姿を一瞥すると、「わかった、持ち場に 戻れ」と隊長は、言いその隊員は頭を上げ「了解しました!」と、叫び、足早に立ち去って行った。 その姿を隊長はやや呆れながら一瞥すると、長机前に置かれたモニターを睨む、青年に近よる。 「滝警部、ど」 「ああ聞えたよ」  滝は、隊長の言葉をそう言いさえぎると、「モニターにも映っている。髑髏のマスクを付けた男がな」そう言い、 おもむろに立ちあがった。  隊長は一歩下がる。 「大倉隊長、指揮官として俺も突入時にいっしょに廃屋に入るぞ」  滝は言いながら、胸元から明らかに規則違反の大きな銃を取りだして隊長を見る。  隊長は、怪訝な顔をするも頷く、その顔を一瞥すると、滝は道の向こうの木々のなかに消えた。                         * ジャリ。  廃屋の中は、静まり返った暗闇が支配していた。  木々に囲まれた、薄暗い森林のなかにあるのもそうだが、廃屋の中には窓がない。あるにはあるが奥の事務所だ けで、ほとんど光は入ってこない。 開けはなたれた運搬口も、北向きのため、中全体を照らすほどではない。  所々闇に隠された中に、確かに、なにかが蠢いていた。  チリチリと首筋に何かを感じた。  すると、  バウン!! 突如、巨大な蝙蝠が髑髏男に襲いかかった。 「バカな!?」  全く気づかなかった自分に、悪態を吐きつつも、巨大蝙蝠の尖った鼻先を掴み、共に外に飛び出した。  表には、何時の間にか藍色の服に身をつつんだ、機動隊が列をなしていた。 * 髑髏男が開け放たれた運搬口から廃屋の中に入り、その姿が闇の中に消えると、藍色の影が、音も無く廃屋に近 付いた。  藍色の影が散開し、運搬口の両脇に3人、事務所の窓下に四人、事務員用出入り口に五人張りついた。  その様子を見ていた他の隊員がゆっくりと姿勢を低くして、木々の隙間から出て、素早く距離を詰める様に近付 いて行く。  その最後尾に、薄茶けたスーツがついていた。  藍色の影がもう、廃屋の目の前にまで近付いき、草陰に身を伏せ潜んだ時だった。  ぶわんと、髑髏男と巨大で異様な蝙蝠が縺れ合いながら飛び出て来た。  潜んでいた隊員は、みな立ちあがり、その異様なモノドモを見おろした。  それは滝も同じだった。 *  キエエェェ!!  巨大蝙蝠は金切り声をあげると、廻りを囲んでいた機動隊員達は、頭を抱えうずくまる。  共振音波だ、三半規管を振るわせる周波数の音を、口から出したのだ。 近くにいた者は、平衡感覚を失いうずくまる。それは髑髏男も同じらしく、マスク越しに頭を抱え、うずくまっ ている。 苦悶の表情でうずくまる隊員達に、他の隊員が足早に駆け寄るものの、それに気づいた巨大蝙蝠はその隊員に覆 い被さり、外牙の付いた大きな口から、鋭い針が先に付いた巻き舌を出すと、隊員の首に刺した。  隊員の顔は見る見る青ざめ、土気色になって息絶えた。  一見血を吸ったかの様に見えるが、実は動脈に空気を入れたのだ。  人間は、3ccの空気が動脈内に入ると実に簡単に死に至る。  それを利用し、注射針の様な舌を使って簡単にその機動隊員を殺したのだ。 そして、もう一人近付く機動隊員に覆い被さり、舌を突き刺そうとしたが、  パンッ!!  乾いた破裂音が巨大蝙蝠の腹部でした。  巨大蝙蝠は、体をビクンとさせると、また金切り声をあげ、その隊員から離れた。 すると、他の隊員が駆け寄り、銃を巨大蝙蝠に向け掃射した。  痩せ細った様な身体の、巨大蝙蝠は以外と硬く。 銃弾の雨に怯むものの、致命傷を負わす程の効果は持たない。 しかし、巨大蝙蝠もやまぬ銃弾に耐えられなくなったらしく、また廃屋に向けて這いつくばって向かった。  銃弾が巨大蝙蝠の皮膚を削り、鮮血を滴らせる。  息も絶え絶えに、這い進む巨大蝙蝠がうずくまる髑髏男や、機動隊員の前まで来た時だ。  ガッ!!  黒鉄色に輝く髑髏男の太い腕が、巨大蝙蝠の首を掴んだ。  そして、  ブワンッ!!と、一回転し、地面に叩き付けられると、バウンと、草を巻き散らしながら、バウンドした。  宙に浮いた巨大蝙蝠に、金切り音を響かせた髑髏男の拳が、背中に突き刺さる。 キイイイイイィと、凄まじい金切り声を上げた巨大蝙蝠は、廃屋の壁まで吹き飛び、叩き付けられた。  叩き付けられた巨大蝙蝠は、壁に張り付いたまま、パァンと、破裂音を響かせて弾け飛んだ。 唖然とする隊員を尻目に、降り落ちる鮮血と肉片の雨の中、髑髏男は廃屋の中に消えて行った。 滝は何故か、その後姿に幼い日の友人の幻を見た気がした。 第三話  木々に囲まれて

 暗闇へと消える髑髏男を追い、滝等、機動隊も廃屋の中に入って行く。
 突入した隊員達が中を照らし出しす。
 しかし、髑髏男の姿はすでに無かった。
 滝は、急く己の心を押さえながら、銃を握っていた。

THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第四話 白巣(前編)
 コーンと、降ろした足音が真白な通路に響き渡った。 成人三人分程度、幅のある長い通路が広がる。  髑髏男は壁に手をあて、ゆっくりと進む。  白色の蛍光灯に照らされた白い空間は、内側に向かって渦を巻く様に、緩やかに曲がっている。  ふと、空気が変わった。  明確な流れがある。  殺意だ。  髑髏男は身をひるがえし、天井を蹴る。  割れたコンクリートから大量の砂がこぼれ、山となっると、やがて、身の丈を超えるほどの山が出来、砂はこぼ れ落ちなくなり、再び静寂が辺りをつつむ。  しかし、明確な殺意はまだ砂の中から感じる。  髑髏男は身構え、砂を凝視した。  すると、 シュバッ!!  巨大なボールチェーンのようなモノが、勢いよく砂の中から飛び出して来た。  がっと、角の付いたような先端を掴み、引っ張ると、不自然に飛び出た角のような先端から、にゅっと、細い針 の様な物が覗き、ビシュッ!!と、針の先端からなにか液体が勢いよく飛び出し、髑髏男の眉間に降りかかった。 「くっ!!」 一瞬視界がさえぎられ、その物体から手を離し一歩下がると、グバアッと、砂を撒き散らしながら巨大な蠍蝎が 髑髏男を襲った。 *  照らし出された廃屋の中には、なにもなかった。 埃っぽい空気が流れ、使われなくなった重機が声もなく朽ちていた。  錆びつき、ボロボロになったその姿を見て、思わず旧友の死を思い出す。 「・・・・・知られぬまま朽ちるのはどんな気分だい?」  そんな言葉を呟いていた。 「滝警部、穴です!!」  先行していた機動隊の隊長の声に、滝は我にかえり、「いま行く」と、答え開け放たれた事務室に向かった。    事務室の床に開け放たれた地下に潜る穴があった。  底は見えないが、階段が覗いている。  機動隊員が、中を照らし見るも、階段しか見えない。  隊員達は各自の点呼と装備を確認すると、地下に続く階段に足を踏み入れて行く。  階段を覗き見た滝は、底から昇ってくる、ひやりとした空気に、不安を感じた。   * 巨大蠍蝎は、髑髏男に覆い被さり、渾身の力を込め八つの腕足で絞めつける。 肩口から伸びたような、2本の鋏腕を使い、髑髏男のマスクを外そうと、がっちりと頭を掴むが、しかし、マス クを外そうとした巨大蠍蝎の動きが止まりそして、  パアンッと、盛大な破裂音を響かせて、自らの肉塊を飛び散らせた。 鮮血のなか、髑髏男がゆっくりと立ちあがる。  すると、キーンと、スピーカーから出るハウリング音が響いた。 『・・・・ククク、強いな、さすがGAIA1!!』  ハウリングと雑音から、やや割れた声が聞える。  髑髏男は音の発する方向を睨む。 『・・・これ以上検体を減らされてもいかん、次は君のお友達にでも闘ってもらおうかな?』  そう言うとその声は雑音と共に消えた。 髑髏男はハッとして、今来た道を逆に走りだした。 だが、その行く手を阻む様に、壁を切り裂き、茶緑色の巨大な影がさえぎった。 弾四話    白巣(前編) 了

 茶緑の塊がゆっくりと身を起こす。
 バッと、両手を広げる様に振り上げたその先には、巨大な鎌が付いていた。


THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第五話 白巣(中編)
 漆黒の中を照らし、ゆっくりと幅広の階段を降り進む藍色の群れ。  三名が先行し先を照らす。  後方も三名が守るようにわざと遅れてついてゆく。  滝はその群れの中心にいる。  照らしているとはいえ、生命を拒絶する様な闇の中、滝の不安は消えない。 それどころか、降り進むたびに、首裏の辺りにチリチリと感じる何かは、強くなってゆく。 果てしなく続くのではないかと思えるほどに長いその階段の底が、やっと終わりらしき光を見せた時だった。  フッと、滝の目の前にいた隊員が消えた。  ハッとし、辺りを見まわす。  他の隊員も異変に気づいたらしく、歩を止め、警戒体制を取る。  その時、ドウッと、隊員達の目の前に首をひしゃげた、その消えた隊員が落ちてきた。  隊員達は動揺しながらも天井を照らし、必死の索敵をする。  滝の首筋がいっそうチリチリと痺れた。  すると、滝は自分でも気づかぬうちに、隊員を押し退け、光に向かい駆け降りていた。                              *  茶緑の巨大な螳螂は、逆三角形の頭に付いた、細い触覚をグリグリと動かすと、大きく振り上げた両腕肢の先か ら金切り音をあげさせて、一気に振り降ろした。  が、髑髏男は巨大螳螂の細長い腕肢を避け、その巨大螳螂の懐に入り込み、その逆三角形の頭を掴み、一気に引 きずり倒すと、渾身の力で握り潰した。  薄橙の脳漿と、真紅の鮮血を撒き散らしながら、蠢くことさえ止めた茶緑の塊を踏み越え、髑髏男は再び走り出 した。 * 滝は真白な廊下に踊り出ると、素早く踵を反し、白い空間厠ぽっかりと開いたような漆黒の穴を見据えた。  ふと、三人の藍色の影が走って来た。  若い隊員を筆頭に、身体の大きな隊員と背の高い隊員が走り込んできた。  この三人の隊員は滝を追って来た者だ。  やや息を切らせながら、滝の目の前に若い隊員が辿り着き、口を開けたその時、「ぐっ!!」と、小さな呻きが数回、 目の前の黒い穴から聞えた。 隊員達がそれにやや背筋を震わせ、そっと振り返ると、ボコンッと、何か黒っぽい塊が投げ落とされた。 ふと、それに目を落とした三人の隊員は、「わああぁ!!」と声を揃えて叫んだ。  投げ落とされた塊は、無残にも引き千切られた、隊長の頭だった。                      *  鮮血に染まった腕を振り、駆け戻った髑髏男の前に、滝と若い隊員が鮮血に染まって立っていた。 脇には、ひ しゃげた無残な肢体が横たわっていた。 第五話      白巣(中編) 了

 見えぬ敵にさいなまれ、滝の心音は早鐘の様に鳴り、脳が痺れるほどの悪寒が背を走っていた。
  残された三人の隊員達は、振るえる手に、黒い散弾銃を持ち、天井を見据える。
  しかし、その姿は見えない。
 音も無く、姿さえも無く、突如現われる衝撃。
  死へと直結する恐怖。
 ゆっくりと、ゆっくりと近付くのがわかる。
 心音を押さえつける。
 フッと空気が揺らぐ。
 隊員が一人視界から消えた。
 滝が天井を見上げると、藍色の影がすぐ横に降った。
 消えた隊員だ。
  首があらぬ方向に曲げられた、無残な死体。
 残された二人の隊員は、動揺で硬直している。
  滝本人も動揺は隠せない。
  心音はおさまるも、変わりにじっとりと冷や汗が背と手を湿らせ、後頭部が痺れて眩暈に似た感覚が襲う。
 瞬きをし、ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ滝の背に、ゆらりと透明な何かが降りて来た。
  ヌウと、降りて来た透明なそれが、気づかぬ滝の背に触れたその時、突然何かに突き飛ばされ、滝の頭の上を
飛んで、壁に叩き付けられた。
 滝が振り返ると、そこには髑髏マスクの男がいた。

THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第六話 白巣(後編)
 叩き付けられたそれは、うっすらと桜色から徐々に薄茶緑の体色になってゆき、そのジルエットを見せた。  それは大きなトカゲ、いや、その突き出た眼や変化する体色はカメレオンそのものだ。 巨大なカメレオンは暫くうずくまるとまたその姿を透明に変え始める、半透明の桜色までになった時、滝は握 っていた銃の引き金を迷わず引いた。 パンッと、渇いた破裂音が鳴ると、銃痕を壁に残し、また消えた。  その巨大カメレオンが近付くのがわかる、良く見れば、そのうっすうらと桜色に近い姿が見える。  目認されたことに気づいた巨大カメレオンは、長い舌を飛ばす。  滝は仰向けに倒れ、それを避け、銃弾を三発正射した。 二発は外れたが一発は右前足に当り、巨大カメレオンは体色を戻しながら滝の足元に落ちて来た。  半透明の桜色の血を流し、ゆっくりと身体をもたげる。  滝は銃を構え、突き出た眼に銃弾を放った。  渇いた破裂音と共に巨大カメレオンは仰け反り、半透明な桜色の鮮血を撒き散らした。 滝がまた、照準を巨大カメレオンに向けると、スッと、影が走り、その影が巨大カメレオンに鋭い蹴りをくら わしていた。  それはあの髑髏男だ。  蹴りをくらわせた髑髏男が、巨大カメレオンをそのまま踏みつけると、パーンと、破裂音を響かせて、巨大カ メレオンは薄桜色の肉片になった。  滝は立ち上がりながらその髑髏男の背を見据えた。                         *  その姿まるで死神のごとき。  真紅のまあるい瞳に、髑髏のマスク。  首に巻き付いたマフラーは、まるで血の様に紅い。  漆黒の体躯に、チタン色の胸。  鋼鉄の腕は赤子程もある。  そして、その背は、なぜか懐かしい。    滝達のことは意にかえさぬ様に、その脇を通り過ぎて行く。  残された二人の隊員は今だ動揺したまま立ち尽す。  滝は無言のまま通り過ぎて行く髑髏男に、銃を向ける。  しかしなぜか、引き金を引くことは出来ない。  入り口でもそうだった、頭はいつもどおりに冷静だが、なぜか引き金を引けない。  滝は銃を静かに降ろすと、なぜか笑んでいた。 第六話      白巣(後編) 了

 緩やかに下る白い廊下を、髑髏男の後につき、降る。
  怖気を誘うほどの静寂。
 病的なほどに真白な空間。
  さらに、奥に行くにつれて深まる殺気。
 それは鋭利な刃物と言うよりは、重たい砂袋でゆっくりと、押し潰されてゆく様な感じだ。
 前を行く髑髏男に向けられたモノだろうが、ネットリとしつこい。
  だが、そんな明確な殺気を感じるものの、廊下には自等以外は誰もいない。
 なぜか、冷えきった廊下の中で、じっとりと汗をかいていた。

THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第七話 魅了
シャツが貼り付く。  こんなにも涼しい、いや、寒いと言った方がいいほどに冷えたこの廊下で、なぜか大量に汗をかいている。 見れば、もはや二人だけになってしまった隊員も、その額に、大粒の汗をかいている。  やがて、だんだんと足音がうるさく感じ、踵が音を出すたびに眉間がよる。 足音が刻む単調なリズム、気分が悪くなるほどにかいた汗。  のども渇き出した。 何かがおかしいとは感じているのだが、なぜか思考がまとまらない。 ゆっくりと襲って来る粘状の殺気に、足首を掴まれた気がした。 *  なにか視界が曇った気がする。  後を歩く三人の歩調が変わった。  髑髏男はハッとし、降り変える。  そこには、銃を構える三人の姿があった。  パーンと渇いた銃声が響くと、二人の隊員は、一心不乱に銃を撃ちつづけたが、滝は引き金を引かぬ様に抵抗し ている。  二人の隊員は顔一面に汗をかき、銃を構え撃ち続ける。  しかし、向けられた銃口から発射される銃弾は、髑髏男の鋼鉄の身体には効かず、全て弾かれ、壁に銃痕を刻む だけだ。  髑髏男はゆっくりと間を詰める。  やがて隊員は弾を撃ち尽くすが、その手を止めない。  弾の無くなった銃の引き金を、今だ引き続ける。  一歩後の滝は銃口は離さないものの、引き金には指をつけず、脂汗で一杯の顔をしかませ抵抗しているようだ。  滝がふいに俯くと、グッと、小さく呻き、背を向けた。  渇いた銃声が廊下に轟くと、甲高い悲鳴が響いた。  隊員達は、壁にもたれる様に気絶する。  その声が響くと、髑髏男は、視界の曇りが晴れた気がした。 *  通路の向こうに、誰か倒れている。  滝は荒いだ息を押さえ、ゆっくりとその倒れた者に近づく。  後から髑髏男もついて来る様だ。  倒れていたのは美しい銀髪を撒き散らす様に広げ倒れた、髑髏男と同じ様な、真鍮色のマスクを付けた女性だっ た。 そのマスクの額には、滝の放った銃弾がめり込んでいた。 第七話       魅了 了


キャラクター紹介&解説ページへ 「MASKED RIDER REBORN」topへ 設定&解説ページへ