THE
MASKEDRIDERREBORN

第一章 第二章


 第三章プロローグ

19XX年、チュニジア

 生を与える水が過ぎて3日。
 陽光が地を熱に変え、水の後を急速に乾かし生を奪う。
  ただ一人、男が立っている。
 蒸すに転がる肉は、乾き始めた土に生命の紅を染み込ませていた。
  その肉塊に囲まれ、男はただ一人立っている。
  奇跡か、実力かはわからない。
 ただ、あの奇襲をたった一人で切り抜け、ここに生きて立っている。
 一本のナイフと、傷一つ付いていない肌。
 そして、同胞も敵も、一緒くたの肉塊。
  男は立っていた。
 まるで、生を奪う太陽が彼のモノのように。

 
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第三章  生
第一話 黒い男
 ガキッ!!  破裂音と衝突音が闇夜に響き、その男は、美海にかけた指を離した。  滝は構わず銃を、男に向けて正射する。  その男は、髑髏のマスクに覆われた顔を両腕でふさぎ、銃弾から頭部を守りながら後退する。  44マグナムホットロード。  男も、マスクに当たれば少なからず、かなりの被害を受けることを十分理解している行動だ。  滝は冷徹に、銃弾をその頭に集中させ正射し続ける。  滝は直感的に、この男は叩いておかなければまずいと感じていた。  と言うのも、本郷のバイクに記憶してあった、以前の髑髏男の行動はみな一貫して攻撃だけを積極的にしていた。  なぜなら、以前の髑髏男は自分の意思がなく、ただの操り人形だからだ。  だがしかし、この男は違う。  蜂堂蒔子の時のように、交換条件でこのふざけた実験とやらに付き合ってるタイプの人間か、それとも、もっと 他のタイプ。  例えば、組織の人間。  もしそうなら、末端でも良い。  組織に近づく、足がかりを掴める。  だが、滝はその画策をすぐに止めた。  滝は直感した、この男はここで殺さなければいけないと。 「隼人!!この娘を、美海をつれて校舎に行け!!」  滝は銃を撃ちながら美海のところまで近づくと、そう後方の隼人に叫んだ。  それを聞いた隼人は、素早く美海に近づき、その肩を掴むと一気に校舎まで飛びのく。  滝は、新たに右胸から銃を出すと、正射を続けた。  フルオート、ブローバックコルトレプリカ。  9o、イけるか!?  滝の顔に焦りの表情が浮かぶ。  しかし、その瞬間、  男と滝の間に、黒い影が降り、その男の胸に、上体が反り返るほどの凄まじい蹴りを当てていた。 隼人だ。  フルフェイスの髑髏マスクを付けた隼人が、その男に飛び蹴りを食らわしていた。  しかも、ひねりを加えて。  滝が銃を下ろすと、隼人は男を踏み台の様に使い、滝のすぐ脇に降り立つ。 滝も隼人も、男は確実にダメージを受けたと思っていた。  それも大きく。  だが、男は反り返った上体を起こすと、そのマスクに空いた、口元の穴にある唇を歪めて、楽しそうに笑んだ。  一気に背筋が凍る。 「・・・・・む、無傷」  そして、その隼人の呟きは、絶望感すら感じさせた。 *  隼人はただ驚愕していた。  振動も充分で、さらにひねりを加えた蹴り。  破壊できぬモノなど無いと思っていた。  まるで、あの頃のような考えだが、今の隼人にはそんなことには気付いていない。  いや、気づけないと言ったほうが正しいだろう。  何故なら、隼人は感じていた。  チュニジアにいた時のような感覚を。  まるで、自分の鼻先を無数の銃弾がかすめ、気を抜けばすぐに全身をバラバラにする、爆発に巻き込まれるよう。  動かなくても、動いても、死が目の前にある感覚。 死と言うものの息遣いが耳元で聞こえる。  隼人は素直に恐怖し、驚愕した。 第三章:第一話   黒い男       了

 殺気。
 だが、闇よりも黒いその男の殺気は、かつて滝が対峙した、あの化け物どもとは明らかに異質だった。
 例えるなら無機質な、そう首もとに冷たく鋭いナイフが置かれているような感覚。
 いや、もっと絶望的に、そのナイフが突き刺さり、冷たい感触とともに命を少しずつ失ってゆくのを感じる様だ。
「こう楽しませてくれるな、用があるのは滝和也、お前だけなんだからな」

 
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第三章  生
第二話 大切な
 男の放ったその言葉は、滝を完全に硬直させた。  瞬間。  ビュッと、高速で黒い影が、滝を追い抜くように飛び出した。  隼人だ。  そのマスクの双眸を紅く光らせた隼人が、拳から金切り音を響かせて男に特攻をかける。  しかし、男は笑みながらその拳を捌く。  隼人の拳は、男に一撃も当てるどころか、かすらせることさえ出来ない。  だが、だからといって隼人の拳が遅いわけではない、さすがに昔、空手をやっていただけはある、切れも狙いも 確実で、スピードにいたっては、改造された身体も相乗て、音速の壁を優に超えている。  その証拠に、金切り音と共に、拳から小さな破裂音が響いて来るのだが、一撃も男に当てることは出来ない。 「呼雄雄雄雄雄雄雄!!!覇ッ!!覇ッ!!覇覇ッ、覇ッ!!!」  必殺の覇気を込めた隼人の声も、ただむなしく響く。  押すことも引くことも出来ぬ。  その時、ガッと隼人の両腕は、いとも簡単に男に捕まれた。  男のマスクに張り付いた、漆黒の鋭利なカーブを描いた双眸が、紅黒く光る。  全身が粟立つ。  隼人も同じだ。  いや、接近している隼人はそれ以上かもしれない。  空気が一瞬に凍りつき、全てが異常な荷重を持って圧しかかる。  身体は鋼鉄よりも重くなり、空気の重さを全身で感じた。   まるで、深海の底で、その水圧に苛まれるようだ。  男が唇をわずかに開き、その白い歯を覗かせて笑むと、隼人の身体はまるで重さを失ったように、その身を宙に 舞わし、遥か後方、校舎の壁を越えて消えていく。  男はそれを見て、少し不満気な笑みを浮かべていた。               *  隼人が気がついた時には既に、その身体が落下をはじめていた。  隼人は背中から落ちる様に身体を丸めると、雑木林になっている校舎の中庭に、枝を折りつつ落着したが、その ダメージは深い。  如何に鋼鉄の、作りモノの身体とはいえ、3、40メートル近い上空から叩き落されたのだ、ただではすむはず もなく、全身が軋み、すぐには動けないだろう。  隼人は呻きながらその身を起こそうとするも、ぴくりとも動かない。 「滝さん・・・・・」  隼人は、動けぬ身体で、ただそう呟くしか出来なかった。                * 身体が動かない  男の気に押されて、滝の身体はその動きを御されてしまった。 「さて、滝和也、そろそろ悪役は悪役らしく、それ相応の態度を取って話をしようじゃないか」  男はそう言い、滝に一歩近づく。  滝は銃を構えようと思うも、腕に力が入らない。  銃弾はたっぷりと隼人の蹴りの時に装填してある。  しかも、目の前の男はっきり言って、隙だらけだ。  この距離で、しかもマグナム弾、致命傷は無理だとしても、動きを抑制することくらいは出来るはず。  だがしかし、身体がまるで無機質な鋼に変えられたように、動くことをゆるさない。  男は、そのマスクの双眸を光らせ、ゆっくりと滝の鼻先まで近づく。  凍りついた空気が、鉛の重さを持って肩に圧しかかる。  男は、ゆっくりと滝を見下ろす様に喋った。 「さあ、滝和也、ここで質問だ。おまえには、大切な者、守りたい者がいるか?」  と、 第三章:第二話 大切な        了

”大切な者、守りたい者がいるか?”
 男は、確かにそう滝に聞いた。 
 滝の背筋が粟立ち、熱をもつ。
 さっきまでの金縛りが嘘のように解け、滝は銃を構えて叫んでいた。
「愛子に何をした!!」
 と。

 
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第三章  生
第三話 招き
「そう憤するな、滝和也」  男はそう言うと、滝の銃を掴んで下ろさせた。 「彼女に何をした?」  荒いだ息で滝は言う。  それに男は、薄っすらと笑むと「大丈夫さ、ただ預かってるだけだ」そう言い、銃から手を離した。 「何を俺に求める?」  抑えつけた声でそう尋ねる滝に、男は「なんでもない、私に付いて来ればいい」と、手を差し出して言った。  滝は銃をしまうと「嘘ではないだろうな?」そう奥歯を噛んで尋ねる。  だが、滝はこの男の言葉が、嘘では無いということはわかっていた。  だがそれでも、僅かばかりの可能性を知らずにいられない。  そしてやはり男は「信じたくなければそれでもいい」ただ、そう静かに答えるだけだ。  滝は一旦瞼を閉じると、ゆっくりと差し出された手に応えるように、校門に向かって歩き出した。  その時「待ってください!!滝さん!!!」そう、隼人の叫び声が響き、滝は歩みを止め、声に向かい振り返る。  そこには荒いだ息をする隼人がいた。                    *  隼人は全身の痛みを押さえ、無理矢理起き上がる。  はやく行かなければ!  隼人の頭の中で、急いた考えがめぐる。  というのも、隼人にはわかっていた、あの男に滝が対峙して無事ではいられないと言うことを。  死ななければまだいい。  だが、死なずにすむことはないだろう。  自分が行かなければ!!  だが、勝てるとは思っていない。  しかし、滝達が、逃げ果せる時間だけなら稼ぐことは出来る。 「滝さん・・・」  呻く様に呟くと、隼人は校舎中庭から、キャンパスの広場に抜ける道を、足早に歩いていた。  やがて隼人の目に広場が見えはじめたのだが、そこには男に付き、歩きはじめた滝の姿が。  隼人は思わず、痛みも忘れて駆け出し「待ってください!!滝さん!!!」と、渾身の声で叫んでいた。  その声に滝は、歩みを止め振り返ると、踵を返し隼人に向きなおす。  隼人はその滝を見て、少し安堵した様に肩を落とした、瞬間、パーンと破裂音が響き、隼人は胸に強い衝撃を受 けて倒れた。  見れば、胸の装甲が丸くへこみ、その中心に溶けて貼りついた鉛のカスがある。  そして、滝を見れば、銃をかまえていた。  隼人は困惑しながらも起き上がろうとする。  その姿を見て滝が「邪魔をするな」と冷淡に言いもう一度銃を撃った。  頭に強い衝撃が響き、銃弾は隼人の額、マスクの最も厚い部分にあたる。  隼人は衝撃に気を失いながら、その銃弾に滝の、何かの決意を感じた。                 *  滝の白銀色の車が、黒い男の乗ったバイクの跡につき、走る。  滝は自らに怒っていた。  こうなることは、簡単に予測出来たろう。  あの組織を追えば自分だけじゃなく、自らとの接点のある者全てに、何かしら影響はあることくらい予測できた はずだ。  だが、本郷との再会や、一月と言う期間。  それにより、周りが見えなくなり、行動を急いた。  ふざけたミスだ、何が大事か、冷静に考えれば防げたはずだ。  その怒りに、滝はただ、ハンドルを強く握る意外出来なかった。   第三章:第三話 招き        了

 隼人はただ呆然と、二人が消え去って行くのを見ている意外、出来なかった。
 それと言うのも、滝の異常な迫力に気圧されたからだ。
 あの男が何を使って、冷静な滝をあそこまで追い詰めさせたのか気にはなるが、後からついて行くほどの勇気は
ない。
 隼人はそのわだかまりを苦く噛み、まだ意識のはっきりしてない美海を抱え、研究室に戻った。

 
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第三章  生
第四話
「もういい!!私はこれで帰るわ!!!」  美海がヒステリックに叫んだ。  もっとも、あの闇のような男と一人で対したのだ、無理も無い。 「落ち着いてください、美海さん」  そう美海をなだめる隼人だが、彼も自分を押さえてる。 「帰るなら帰ったほうがいい、これ以上介入しても命を縮めるだけだ」  黙って二人を見ていた緑川が、タバコをふかしながらそう言う。  その緑川を美海はチラッと見て「ええ、そうさせていただくわ」そう、やや引きつり気味に言い、校内から出て 行った。  その美海をやや心配そうな顔で見送った隼人に「気にすることは無い、これが一番良い方法だ、このまま関われ ば、死ぬことになる、無関係な人間が死んでゆくのはわしとて忍びない」くゆらせたタバコを消しながら緑川はそ う言い、仮眠室に消えて行く。  気付けば、窓の外の空は、もう白み始めていた。      *  東京郊外。  小さな林に隠された一棟の、建設途中で頓挫した廃マンション。 バブル時に建設しようと思ったものの、途中でバブルが弾け、資金が底をついて結局撤去も出来ぬまま放置され たモノだ。 「駐車場つきとは、豪華なもんだな」  滝は車から降りながら、そう軽く毒づく。 「中はもっと豪華だ」  男はそう言いながら建物の中に消えて行く。  滝もそれに続き、中に入っていった。  中はコンクリートの柱が、ただ続くだけの粗末なものだ。  男は動かないエレベーターの前に立ち、扉をこじ開ける。  そして、中に入るとパネルの上に手をかけ、小さなカバーを外して、中のボタンを押す。  電源が着いた。  滝が乗り込むと、男はパネルの下に手をかけて、またカバーを外してボタンを押す。  すると、ゆっくりと扉が閉まり、エレベーターが地下へと潜りだした。 「なあ、名前くらい教えてくれないか?お前だけでは呼びずらい、それに、お前だけ俺の名を知ってるのはずるい だろう?」  滝は男を見てそう言うと、男が「”ハデス−0”だ、つまり、ガイア−1、本郷やマーズ−2、一文字隼人以前 に創られた、プロトタイプのサイボーグさ」そう言い、滝を見て笑んだ。 「プロトタイプ?」  滝がまじまじと男を見る。  その滝を笑みながら見て、男は「そう、まあ、名前的に言えば本郷は新宿の件で”謎の髑髏マスクのライダー” として有名だからな、あえて言うなら、マスクドライダー0、”ライダー0”とでも名乗ったほうがいいかな?」 そう楽しそうに言う。  それを滝はただ、苦く見ていた。 そして、エレベーターは深く潜っていく。 * 気がつけばいつの間にか眠ってしまった。  隼人が気がついたのは、もう夕方近くだ、教授も仮眠室から出てきた形跡はない。  いくら学校は休みに入っているとはいえ、こんな時間まで寝ているのは異常だ。  隼人はそう思い、ゆっくりと仮眠室の扉を開けた。  中は真っ暗で、ただ簡素なベットが一つあるだけだ。  そのベットはちゃんと膨らんでおり、誰かいるのがわかった。  しかし、寝息が聞こえない。  隼人は恐る恐る毛布に手をかけ、めくり上げた。 「うわあぁっ!!」  隼人毛布に包まった”それ”を見て、思わず叫び飛び退いた。  顔一面に驚きを表して、”それ”を見つめる隼人の背に、ゆっくりと何かが近づいた。  第三章:第四話 零       了
「目が覚めたようだな、隼人」
 ハッとしたように隼人が、後ろから近づいた緑川のその声で振り返ると、そこには、緑川が本郷と共に立って
いた。
「教授無事だったんですね、それに、本郷さんも、終わったんですね」
 二人の姿を見て隼人は、落ち着きを戻すようにそう言い「で、”あれ”は?」と言いながら仮眠室か覗く”そ
れ”に目を移した。
 仮眠室のベットに横たわるそれは、薄緑がかった枯れ色の、人型のなにかだ。
「刺客だよ」
 隼人の問いにそうあっさり答えた本郷は、隼人を促すように仮眠室から出る。
 そして、仮眠室の扉を閉じ本郷は「大体の話は教授から聞いた、隼人君、君と会うのはこれが初めてだが、滝の
資料や教授からの話で大体は理解しているつもりだ、君の性格からして滝を追いたいのだろう?」そう話を続けた。
 その話の問いにうなずいて答えた隼人に、本郷は「だったら、俺のバイクを使うがいい、あれには滝の車にもつ
けられるような追跡装置が備えてある、もちろん滝の車には送信機が付いている、その情報があれば、すぐに追い
つけるはずだ、自分のヘルメットの周波数にバイクを合わせてやれば、それで君にも動かせるはずだ」そう言って、
隼人の肩を二度ほど叩く。
「本郷さん、ありがとうございます」
 本郷の言葉にそう答えた隼人は、ラボから出る。
 その姿を見ていた緑川が「お前はどうする?滝のところに行くつもりではあるんだろう?」そう聞くと、本郷は
「もう一つの方で行くさ」と答えて、ラボを出た。   

 
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第三章  生
第五話 追跡者
機械倉庫の中の白いバイク。  隼人はそれに跨ると、前面のパネルを調整し、アクセルを開けた。  バイクは低いエキゾスソノートスを響かせ、走り出す。  しかし、機械倉庫を飛び出した隼人とバイクの後ろを、何者かがつけていた。  隼人はマスクが示す方向に従ってバイクを走らせる。  夕闇が近づく。  あれからどれくらい経ったのだろう?  本郷さんの目が覚めているから、ゆうに8時間くらいは経っているだろうか? 「滝さん」  隼人は焦り気味に呟き、バイクのスピードを上げ、郊外に出る。  その時、隼人は何モノかが、このバイクの後をつけてるのに気付いた。  しかも、何かに頼らず独力でついてきている。  速度はすでに時速200キロ以上。  信じがたいが、このスピードに独力でついてくる。  しかし、何か乗り物に乗っていれば、マスクをつけた隼人にはすぐにわかる。  現に、スピードを上げてからその気配に気付いたのが証拠だ。  自力で追っているため、気配を消すことにまで、力をまわせなかったのだろう。 そして、相手も気付かれたことをわかっている。  襲ってくるのは近い。  隼人は相手を確認するため、ややスピードを落とし首を振った。  だが、その存在は確認できない。  隼人は仕方なくさらにスピードを落とし、自動操縦に切り替える。  そして、瞳をつぶり、全ての神経を耳に集中させた。  ヴゥッヴゥッヴゥッ・・・・・。  自らのエンジン音意外に、何か虫の羽音らしきものが聞こえる。  隼人はハッとし、大学のラボ、その仮眠室に横たわった死骸を思い出した。  隼人は上空を見上げ、驚愕する。  そこには二匹の、いや、二人の、人型の虫。  それが薄い羽根を広げ、上空を飛んでいる。  隼人はバイクのブレーキをかけ、横倒しに止めた。  瞬間。  その二匹の虫人間が、猛スピ−ドで隼人に滑空してきた。  羽音が滑空時の空気抵抗で、キイイイイイイイイインと甲高い音を響きわたらせる。 隼人は素早く起き上がり、体勢を立て直そうとするが、  ドウン!!  腹部に圧迫感が襲い、隼人は弾き飛ばされた。  腹部にヒビが走る。  隼人はそれに気付かず立ち上がり、戦闘態勢を立て直す。  その起き上がった隼人の目の前には、赤い瞳を灯した、バッタ型の虫人間が二人、立っていた。 第三章:第五話 追跡者        了
 延々と続く鉄色の壁に、赤いシェルポッド(卵管)が並ぶ。
 そのポットの中には、薄っすらと人影が浮かんでいた。
 滝がゆっくりとその中を覗き込む。
 目を凝らし見れば、浮かんでいるのは人間ではなく、人型の巨大な昆虫のようなモノ。
  そんなモノが収まったポッドが、延々と壁に張り付いて並んでいる。
「そいつらは護衛だよ」
 ライダー0と名のったその男は、滝の疑問を察したようにそう言うと、一つのポッドに手をおき「飛蝗型のイク
セントヒューマン(昆虫人間)だ、同種キメラをお前も見ただろう?第三研究所で」と、付け加え笑む。
「また、生態セキュリティーシステムか?」
 あの地下の、白い通路でのことを思い出す。
「まあ、そんなところだ」
 男はそう言い、また通路を歩き出した。

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第三章  生
第六話 音速
 飛蝗に似たそれは、ゆっくりと体色を濃緑に変え、背の羽根を広げた。  その瞳が、濃淡赤色からルビー色に変わる。  くるか!  隼人はとっさに構え、攻撃体勢をとる。  二体のそれは、額の触覚を、ぐりんと回すと消えた。  いや、跳んだ、知覚できぬ速さで。  隼人の、そのマスクの力をもっても知覚できぬ速さだ。  破裂音が空に振動する。 「音速!?」  隼人が思わず、そう驚嘆の声を呟くと同時に、胸に鈍い衝撃が。  隼人の身体が、一気に突き飛ばされる。  その一瞬を、隼人はスローモーションに知覚した。  隼人の身体は完全に、浮いている。  もはや影すら知覚できぬそれらが、宙に浮く隼人を弄ぶように攻撃を繰り返す。  ゴンッ、ゴンッと隼人の身体への攻撃音が響き渡る。  隼人の身体は地に着くことは無く、むしろ、徐々にその高さをます。  視覚にとらえるにはあまりにも速過ぎ、音が聞こえた時にはもうすでに遅く、今の能力じゃ対処など不可能。  声を上げる暇すらない。  すでに五,六十回の攻撃を受け続け、内臓に負荷がかかり始めてる。  時速二、三〇〇キロの、十トントラックの衝突にも耐えられるボディーを持つが、納められたその内臓は生身だ。  だが、亜音速の攻撃にしては、その威力はたいしたことは無い。  威力そのものは軽いのだが、こう、何度も同じ場所を攻撃されれば、ダメージがつのり、負荷が出てくる。  現に、隼人の内臓は破裂寸前だ。  このままではまずい。  下腹部が詰まる感触が走る。  内臓が衝撃を受けとめきれず、腫れて肥大してる証拠だ。  脂汗が滲む。  挟み込む衝撃がまた同じ場所に、  その瞬間、隼人は何かを思いついた。 ガッ!!  隼人はそれの一体が、腹部に蹴りを入れた瞬間、その足を掴んだ。  そして、後部からの衝撃を耐えながら、隼人はそれの頭を掴み盾に、してもう一体の攻撃を受け止めた。  それにより、やっと隼人の体は地に落ちる。 隼人はそれを掴んだまま、立ち上がると、もう一体のそれも、着地をした。  どうやらこれらは、戦闘を目的として作られたものだろう。  戦況が変わったので、攻撃方法を変える気だ。  着地したそれの触覚がぴくりと動く。  隼人はおそらく、それからくるであろう攻撃を予測することに神経を集中した。  そう、掴んでいるもう一体のそれのことをただ押さえる以外せずに。   *  地下の機械室にそれはあった。  カバーのかかったバイクである。  本郷がそのカバーを勢いよく取ると、白銀に真紅の炎を宿した、鋭角なシルエットを現した。 第三章:第六話 音速        了
 隼人は、片手でその飛蝗男を押さえつけ、眼前の飛蝗男を見すえる。
 この時隼人は、眼前の飛蝗男に向けては神経を張っていた。
 そのため、最大の力で押しつぶされんとしている、片手の飛蝗男には注意がいっていない。
  隼人は気づくべきだった、渾身の力を込めて押さえ付けてるその飛蝗男はまだ、生きていることを。

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第三章  生
第七話 L.O.A.
それは、白金に真紅の炎を纏っていた。  無音のまま信じられないスピードで、闇が降り始めた道を走る。  それに乗るのは、そう本郷だ。  その髑髏マスクをクロムシルバーのフルフェイスに変え、その牙の突き出たマスクの顎は、力を感じさせた。                  * 「うあっ!!」  隼人は突如、左足を押さえつけられる感触に声をあげる。 見れば、押さえつけていたと思っていた飛蝗男が、腹部から伸びた、隠された福腕を使って、隼人の脚を掴んで いた。  さらに、その飛蝗男は、頭を掴む隼人の左腕にも腕を這わせ、関節を締める。  こうなると、いかにパワーのある機械の身体も、人工筋肉が伸縮されないので、力の出しようがない。 「まずい!!」  そう、焦りの声をあげた瞬間、隼人の視界はぐるりと反転し、身体が宙に飛ぶのを感じた。  そして、首に激痛が走り、地面に叩きつけられる。  その瞬間、左腕と足を掴んでいた飛蝗男は離れたが、状況はあきらかに悪い。 攻撃されたのは頭部、唯一生身の部分の脳が揺さぶられて、身体をまともに動かすこともままならないのだ。  加えて、敵は再び二人になった、こうなると早々に掴んでいた飛蝗男を始末しなかったことを後悔する。  だが、冷静に考えれば、自分が本当に化け物とはいえ、人型のモノを殺せるのかは疑問ではあった。  人を殺した業を持つ自分が、再び人型のモノを殺めることに躊躇しないか?  そんな疑問が生じているのはもう、諦めているのだろう。  隼人はもう、ただふらつく脳でそんな思惑を巡らせる以外は出来なかった。  だがしかし、いつまで経っても飛蝗男のトドメはこない。 やがて、少しづつ脳の揺らぎが治まり、終に身体を起こせるまでになった隼人は、ゆっくりと立ち上がると、辺 りを見まわして驚いた。  何故なら、道端に二体の飛蝗男がうずくまって倒れていたのだ。  瞳の光は消えかかり、まさに虫の息、今にも死にそうだった。  隼人が注意しながらも、不思議そうに近づくと、指先をかろうじてピクピクと動かすだけで、とても立ち上がれ そうにもない。  一体何が起こったのかはわからないが、外傷がほとんどないことから、第三者が攻撃したとは考えにくい、第一、 そんな気配など感じはしなかった。  隼人は一体の飛蝗男を掴み、視界をサーモグラフィにしてその理由に気づいた。  飛蝗男の身体は温度が低くなり、衰弱している。  つまり細胞がエネルギー(熱)を発していないのだ。  そして、そこから考えられる理由は二つ、酸素がないか、エネルギーの原料を使い果たした、つまり空腹かだ。 外で、たいした高さもいないここで、酸素が異常に薄いは考えにくい。  と言うことはつまり、空腹なのだ。  確かに、隼人の後をつけるため、飛び続けたうえ、音速での攻撃などエネルギーを一瞬にして失ってしまうだろ う。  それでも、細胞自体に蓄積されたエネルギーを、使い切ってまで戦い続けるとは、まさに生態兵器。 自分の死 よりも、相手を殺すことに全力を尽くす。  その恐ろしいまでの執念に、隼人は恐れずにはいられなかった。 * 「こいつは確かに、いい護衛だが問題があるんだ」 その男はそう言いながら、壁に埋まった赤いシェルポッドを指差した。 「細身の身体に高エネルギー細胞をのせたことで、爆発力やスピードは上がったが、そのおかげでエネルギー消費 量はバカ高い、なのにライフエマージェンシーコール(生命危機反応)を制御されてるから餓死するまで戦い続け る、だからこんだけの数が必要なんだ」  男はそう言うと、滝の方をちらりと見る。  滝はただ無視するように、徐々に近づく、奥の扉を見ていた。 第三章:第七話 L.O.A.       了
 隼人は一体の飛蝗男を掴み上げると、拳を握る。
 だが、その拳は振り下ろされはしなかった。
 それは、その飛蝗男があまりにも弱々しく、息をしていたからだ。
 そう隼人は殺すことが出来なかった。
 
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第三章  生
第八話 対面
「役に立つのか?その程度の奴等で」  無視していた滝が不意にそう言う。 「まあな、使い捨ての武器としては、ミサイルよりも役に立つ、それに、勝手に自殺してくれるんだ、指揮するほ うとしては後腐れがなくていい」  男は滝の言葉にそう答え、扉にコックに手をかけ下げた。  ゴックンと扉が響くと、男はゆっくりとその扉を横に引いて開け、滝を中へと促す。  それに滝は無言で応じ、男よりも先にその中へと入っていった。 パパパッと、奥から順に電灯に灯が灯され、その部屋をあらわにした。  そこは広く白い空間。  不可思議な機械や、管に入った謎の生命体。  解剖用ベットに、ベルトが付いたものの群れ。  そして、たち込める屍臭と精密機械特有のイオン臭。 そう、滝がかつてあの地下で嗅いだ臭いだ。  ふと、一つのベットが滝の視界に入った瞬間、滝の意識はそれに集中した。  一つだけ真っ白なシーツがかかり、少し膨らんでいたからだ。 ドクン!  心音が脈打つ。  ゆっくりとまわり込み、そこに横たわる者の姿を、判別しえる位置まで歩む。 ドグンッ!!  心音が激しく鳴る。 ふくよかな胸の膨らみが見え、そして、その顔が見えた。  予告されたどうりの、見知った顔だ。  心音は治まった。  肩の力が抜ける。  滝は深く息を吐くと、「・・・・・ほんとに、言ったとうりの人質をとるんだな、経験から言えば、こう言う奴 はただの素人か、バカか、何か目的のある奴だけだ」滝はそう言い、ゆっくりと男を見た。 「流石だ、滝和也、やはりお前は、優秀な刑事だよ」  男は滝の言葉にそう笑んで答え、ゆっくりとその女性、愛子の側に近づく。  滝の身体がわずかに強張り、ピクンと肩を震わす。 「そう構えなくてもいいさ、何もしやしない、ただ、まだ役者が揃いきっていないからね、彼女を取り返されるわ けにもいけない、だからといって、奪い返した時に、傷が付いてもお互い困るだろ?だからここに立ったまでさ」  男は滝の顔を見てそう言うと、ゆっくりと滝の後ろを指差した。  振り返った滝の目に映ったのは、ただのパイプ椅子。  「まあ、座れ、役者が揃うまでは時間がある、お前の知りたいことを話してやろうじゃないか、包み隠さず全てな」  そう言った男の言葉に、滝の表情が鋭くなる。  男はその反応を、楽しむ様に笑んだ。 *  バイクに乗り、装置の示すとうりに走る隼人は、一軒の廃ビルに、滝の車があるのを見つけた。 「あった、あそこが」  隼人はそう言い、滝の車の側にバイクをつけた。  よく見ればそこは郊外のうち棄てられた、ごく普通のマンションだ。  隼人は本当にここがそうかと勘ぐるも、このままぼっと考えていてもしょうがない、隼人はそう思い中に入って いった。  その中は何もなく、コンクリートがただ打ち付けてあるだけの、質素と言うにはあまりにも、何もなさ過ぎてい る。  だが、隼人がヘルメットの機能で調べると、明らかに何者かの足跡が点々と動きそうもないエレベータに続いて いた。  隼人はその足跡を辿り、エレベータの前に立つ。  そして、隼人は力を込め、そのエレベータの扉をこじ開け、中のゴンドラの床を打ち抜いた。  打ち抜いた床から見えるのは、遥か地下にまで続いている闇。  明らかにここのエレベータは地下に行くはずもない。  何故なら、表示板には一階までしか表記されていないからだ。  隼人は、ごくりと唾を飲み込むと、闇に向けて降りた。 第三章:第八話 対面        了
 シャアアアアア!!
 摩擦音を響かせて、隼人は一気に滑り降りた。
 エレベーターを上下させる、ワイヤーをガイドとブレーキにし、一直線に落下する。
 さすが鋼鉄の体か、摩擦熱でワイヤーが赤みがかってるにもかかわらず、隼人は平然と滑り降りてゆく。
 やがてコンクリートの地面が見え、隼人は強くワイヤーを握り、落下を制動すると、ゆっくりとその底に立った。
 エレベータの底は排水溝があり、最下階の床より大体一メートル前後だろうか、深く造られているものだ。
 したがって、隼人の目の前の扉は腰から少し上、腹部くらいの位置に、その底面がある。
 隼人はその扉に手をかけ、ゆっくりとこじ開け、中に入った。
 そこは、暗い廊下と、その壁に埋められた赤いシェルポッドが光る、不気味な空間だった。

THE MASKD RIDER REBORN
第三章  生
第九話 戦鬼覚醒
 暗い。  隼人はその暗さに、何か違和感を感じた。  暗すぎるのだ。  常夜灯のような、シェルポッドの光だけがその暗い廊下を照らしているだけ。  生命感などはまったく感じられない空間。  あの男が入って行ったに違いなにのだから、何かしらの事が起こってもおかしくはないはずだ。  隼人は全体をよく見回しながら、そう考えた時、ゴポンと何か音がした。  隼人はとっさに身構えると、きょろきょろと廊下全体を注意深く見回す。  その時、赤いシェルポッドが全て開き、中から、あの飛蝗男がゆっくりと出てきた。  その数は見えてるだけでも十体はいるだろうか。  あの、二体でも苦戦した飛蝗男がだ。 群れをなして隼人の目の前に立つと、ゆっくりと紅く瞳を変色させ始めていた。    ゴギャア!!  考えるのが先か、隼人はすでに飛蝗男の群れに突っ込んで行った。  とりあえず目の前の飛蝗男を蹴り倒し、踏みつけ、次の飛蝗男を殴り倒す。  狭い通路(大人三人ほど並んだくらいの幅)に、群れてるためか、飛蝗男の反応がわずかに遅れ、さらに、その スピードも落ちていた。  いける!  隼人はそう自信を感じ、さらに奥に切り込む。  だが、隼人はまだ甘かった。  まだ、倒した飛蝗男にとどめをさしていなかったのだ。  数対の飛蝗男をなぎ倒しても、ウォーライフ(戦闘生命体)として生み出されたそのモノドモに、戦意喪失とい った言葉はない。  動けなくなるまで、幾度でも立ち上がり攻撃を繰り返す。  まさに、人が生み出したヴァーサーカー。  倒れた飛蝗男どもも、隼人の脚にしがみつき、その歩を止める。  その隙を見て、一斉に飛蝗男どもが押しよせ、激しく攻撃を繰り出す。 それはすでに圧し掛かるほどの量となり、山のように隼人の身体をつつんだ。  隼人は、先の戦いにより負った、内臓のダメージが再び発現し、隼人は嗚咽を洩らさずにはおられなくなり、や がてその意識は混濁をし始めていた。  終に隼人は両膝を床につき、うずくまってしまう。  そして、ううう、うと小さく呻くと、隼人は終に動かなくなった。  だが、飛蝗男どもはその攻撃の手を緩めることはなく、隼人の身体になおも圧し掛かる。  隼人の意識が終に、昏倒しそうになった瞬間、パッチッ!と、何かが隼人の頭の奥で弾けた。  その瞬間、隼人の意識はなくなった。  が、 ゴバンッと激しい音をたてて、隼人は飛蝗男どもの群れを弾きかえし、立ち上がっていた。  爛々と真紅の瞳を輝かせて。                   * 「役者は揃ったようだな」  男はそう言うと、ゆっくりと滝の横に立ち、もう一つの扉を見た。 「ありがとう滝、何も言わず、全ての説明に耳を傾けてくれたことに礼を言うよ」  男のその言葉に呼応するように、滝は顔を上げ、男を睨んで立ち上がると「お前は嘘、偽りはないと言ったが、 全て黙って聞いたとはいえ俺は信じていたわけじゃない」そう言い、滝は銃を抜く。  そして、「答えろ!本郷が、本当に俺を、俺達をただ扇動していただけだったのか!?騙し続けていたのか!? 答えろ!!!」そう叫ぶ。  その滝の叫びは、不安感と言うよりも、恐怖心が感じ取れた。   第三章:第九話 戦鬼覚醒       了


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