「目が覚めたようだな、隼人」
ハッとしたように隼人が、後ろから近づいた緑川のその声で振り返ると、そこには、緑川が本郷と共に立って
いた。
「教授無事だったんですね、それに、本郷さんも、終わったんですね」
二人の姿を見て隼人は、落ち着きを戻すようにそう言い「で、”あれ”は?」と言いながら仮眠室か覗く”そ
れ”に目を移した。
仮眠室のベットに横たわるそれは、薄緑がかった枯れ色の、人型のなにかだ。
「刺客だよ」
隼人の問いにそうあっさり答えた本郷は、隼人を促すように仮眠室から出る。
そして、仮眠室の扉を閉じ本郷は「大体の話は教授から聞いた、隼人君、君と会うのはこれが初めてだが、滝の
資料や教授からの話で大体は理解しているつもりだ、君の性格からして滝を追いたいのだろう?」そう話を続けた。
その話の問いにうなずいて答えた隼人に、本郷は「だったら、俺のバイクを使うがいい、あれには滝の車にもつ
けられるような追跡装置が備えてある、もちろん滝の車には送信機が付いている、その情報があれば、すぐに追い
つけるはずだ、自分のヘルメットの周波数にバイクを合わせてやれば、それで君にも動かせるはずだ」そう言って、
隼人の肩を二度ほど叩く。
「本郷さん、ありがとうございます」
本郷の言葉にそう答えた隼人は、ラボから出る。
その姿を見ていた緑川が「お前はどうする?滝のところに行くつもりではあるんだろう?」そう聞くと、本郷は
「もう一つの方で行くさ」と答えて、ラボを出た。
THE
MASKD RIDER REBORN
第三章 生
第五話
追跡者
機械倉庫の中の白いバイク。
隼人はそれに跨ると、前面のパネルを調整し、アクセルを開けた。
バイクは低いエキゾスソノートスを響かせ、走り出す。
しかし、機械倉庫を飛び出した隼人とバイクの後ろを、何者かがつけていた。
隼人はマスクが示す方向に従ってバイクを走らせる。
夕闇が近づく。
あれからどれくらい経ったのだろう?
本郷さんの目が覚めているから、ゆうに8時間くらいは経っているだろうか?
「滝さん」
隼人は焦り気味に呟き、バイクのスピードを上げ、郊外に出る。
その時、隼人は何モノかが、このバイクの後をつけてるのに気付いた。
しかも、何かに頼らず独力でついてきている。
速度はすでに時速200キロ以上。
信じがたいが、このスピードに独力でついてくる。
しかし、何か乗り物に乗っていれば、マスクをつけた隼人にはすぐにわかる。
現に、スピードを上げてからその気配に気付いたのが証拠だ。
自力で追っているため、気配を消すことにまで、力をまわせなかったのだろう。
そして、相手も気付かれたことをわかっている。
襲ってくるのは近い。
隼人は相手を確認するため、ややスピードを落とし首を振った。
だが、その存在は確認できない。
隼人は仕方なくさらにスピードを落とし、自動操縦に切り替える。
そして、瞳をつぶり、全ての神経を耳に集中させた。
ヴゥッヴゥッヴゥッ・・・・・。
自らのエンジン音意外に、何か虫の羽音らしきものが聞こえる。
隼人はハッとし、大学のラボ、その仮眠室に横たわった死骸を思い出した。
隼人は上空を見上げ、驚愕する。
そこには二匹の、いや、二人の、人型の虫。
それが薄い羽根を広げ、上空を飛んでいる。
隼人はバイクのブレーキをかけ、横倒しに止めた。
瞬間。
その二匹の虫人間が、猛スピ−ドで隼人に滑空してきた。
羽音が滑空時の空気抵抗で、キイイイイイイイイインと甲高い音を響きわたらせる。
隼人は素早く起き上がり、体勢を立て直そうとするが、
ドウン!!
腹部に圧迫感が襲い、隼人は弾き飛ばされた。
腹部にヒビが走る。
隼人はそれに気付かず立ち上がり、戦闘態勢を立て直す。
その起き上がった隼人の目の前には、赤い瞳を灯した、バッタ型の虫人間が二人、立っていた。
第三章:第五話 追跡者 了