THE
MASKEDRIDERREBORN

第一章 第三章


 第二章プロローグ

 粛然とした部屋に、藍色の制服に身を包んだ滝が横長の机の前に立っている。
  その机の向こうには、数名の、初老の男達が訝しげな目で滝を見つめ、座っていた。
 その一人が、オホンッと咳ばらいをもらすと、手もとの資料を手に取り、「滝和也警部、キミは、先日の”特例
発動”についてだねえ、その、大きな規律違反をした」そう歯切れ悪く言う初老の男は、チラッと滝の顔を見ると、
話の続きをはじめた。
「え〜滝警部、実際キミは本来ならば、懲戒免職どころか、刑事犯として告訴されてもおかしくないのだが・・・
え〜このたび、インターポール(国際警察機構)から、キミの派遣要請が出された・・・だから、キミは、今回のこ
とは、不問とし、休暇というカタチで一ヶ月謹慎していただきたい」
 歯切れの悪い、奥歯にモノの詰まった言いようだ、とても官長職の人間とは思えない。
「いや、だからこそか・・・」
 滝はそう呟くと「わかりました、今日の午後より"謹慎"に入ります」そう言い敬礼をした。
 初老の官長等は敬礼を返すと「良い"休暇"を」と、返した。
 去り際に、滝は苦笑をせずにはいられなかった。

                                           *

「滝さん」
 車の窓を誰かが叩いた。
 それは、黒いコートを羽織ったまだ若い男だ。
「・・・・宇田島、公安か・・・・」
 梅雨の雨に濡れた車の窓を下げ、その男を見た滝はそう言い、いかにもつまらなそうな態度で窓を上げた。
「失礼します」
 そう言いながら、男は後部座席に乗り込んだ。
「吸うか?」
 タバコを差し出す滝はバックミラー越しに、男の位置と、胸の銃を判別した。
 しかし、それに気付いた様に男が「ムダですよ、胸に入れてるのはダミーです、あなたにはこれくらい用心しな
いと」そう言い、手首から銃をスライドさせ、座席シート越しに滝に突きつけた。
「ふ〜ん、隠し銃か、だからそのコートか、公安も色々考えるな」
「ええ、ちなみに、ここからじゃ完全に死角、ですね」
 そう言い、銃をしまい直す男をチラッと見ると、滝は「・・・吸わねえのか?」と言い、タバコを咥えた。

                                         *

  ゴガンッ!!
 激しい衝突音がビル内で響くと、一斉に炎が窓を突き破って闇夜を破る。
 それを後目に、巨大な白いバイクに跨った男が素早くその場を走り去って行った。
 その男は、巨大な赤い目を光らせていた。

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第二章  邂逅
第一話 雨、はじまり
降り出した激しい雨が、フロントウィンドウをを打つ。  滝は首をコキッと鳴らすと、道の小脇に車を停めた。  バンッ。  雨も気にせず、目の前の喫茶店に入る。  黒いコートの男、公安の宇田島もそれにつづく。  滝は奥の席に座るとタバコを消し、ウエイトレスにコーヒーとホットサンドを頼む。  宇田島はコーヒーだけを頼んだ。  注文したモノが来るのを待つ間だ、滝は、ギッと木の椅子を鳴らし、天井から下がったテレビを凝視した。    * 「なんで私がこんなトコロにいなきゃいけないの!?」  明かに苛立った雰囲気で美海は言った。 「まあ、しょうがないじゃないの、まだ入って2年目なんだから」  優しそうなメイクさんが美海の頬にファンデーションを塗りながらそう宥めた。 「あと五分でーす」  ADの声がロケ車に響く。  美海は溜め息を吐くと、マイクを手に雨の降りしきる外へと出た。   *  テレビには早朝からやってる、ワイドショーまがいのニュース番組が映っていた。  まだ若そうな中堅キャスターが「昨日新宿某所の保険会社ビルで大規模な火災がありました、四社は20名にお よび、現場は今も騒然としております」そう伝えると、「では現場に中継車が向かっております、中継の平松さん」 と言い、画面が切りかわった。 「はい、現場の平松です」  平松美海と書かれたテロップを前に、彼女が淡々と現場の状況を伝え出した。  バックには焦げ後も生々しいビルが見えた。  スッと、ウエイトレスが注文の品と明細を机に置くと「ごゆっくり」と言い、にっこりと笑んでその場を立ち去 って行った。 ウエイトレスの手が退いた後、見えた滝の瞳の色が一瞬変わるのを、宇田島は見逃さなかった。 第二章:第一話 雨、はじまり     了

 梅雨独特のしつこい雨を、美海は苦々しく見つめた。
 ただでさえ渋滞してこの現場から出れないというのに、雨は止むどころか神経を逆なでするように、ベッタリと
まとわり付くように降っている、加えて、機材の鉄臭い匂いがさらに不快にさせる。
 そんな彼女を知ってか知らずか、警察車両は悠々と横を通り過ぎて行く。
 その時ふと、立ち去る車の群れとは逆に、ここに入って来る白銀色の車が目に映った。
 警察関係者だろうか、現場となったビルに横付けすると、颯爽と二人組みの男が出てくるのが見える。
 黒いコートに身を包んだ男と、白いスーツを着た男だ。
 守衛の制服警官が一例を返しているところを見れば、本庁の刑事かと思う。
 しかし、現場検証も一段落したこんな後で、何を調べるというのだろう?
  美海はビル内に消えて行く二人の男を見つめ、そんな疑問を考えていた。
 車はやっと移動をはじめた。

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第二章  邂逅
第二話
 ジャリジャリと、踏み進むたびに、細かいガラス片や瓦礫が音を鳴らす。  鑑識の出行った後のビル内はめぼしいモノはほとんど無く、ただ黒く煤けた壁が続いているだけだ。  ほとんど何も無いと言っていいだろう。 「滝さん、そろそろ"出ませんか?"」  宇田島が足音を鳴らして、滝の背にそう言いながら近づく。   それには、滝をこれ以上自由に動かしたくないという思惑が感じ取れる。  滝はゆっくりと目をつむると、右の胸ポケットから何かを出した。  それは、どこにでもある金色のCD−Rの、ROMの入ったケースだ。 「・・・・取引するか?」  滝は瞳を開けながらそう言いだす。  宇田島の歩が止まり、空気が一瞬強張りを見せる。 「これは、"例の七枚"のうちの一枚だ、たぶん、おまえの"父親"が求めてるものだろう・・・」   その滝の言葉に、宇田島が奥歯を噛みながら近づく。 「・・・・・良いんですか?これが無ければ滝さん、あなたを護るものはもう・・・」  宇田島は、冷や汗を掻きながらそう言い近づく。  滝からの攻撃的な思惟は感じられない。  むしろ取引を待ってる感がある。 「大丈夫だ、他のモノでも、十分俺を護ってくれるだろう」  やや笑んだ声で答えた滝の声には、十分な説得力がる。  その声に、宇田島は少し緊張を解いた顔をし、手を伸ばす。  が、  パンッ。  いやにあっさりとした破裂音が響くと、宇田島はその場に倒れこんだ。  左の太ももが鈍い痛みを発している。  宇田島は銃を袖から飛び出させると握り、うつ伏せのまま滝に向ける。 「大腿骨粉砕骨折、全治10ヶ月ってところか?」  滝はそう言いながら振り向き、宇田島を見下ろした。  呻きながら、宇田島は撃鉄を起こす。  滝はゆっくりと、CDをしまいながら腰をおろし、宇田島の頭にいつの間にか抜いた銃を突きつけた。 「滝さん!!」  叫ぶ宇田島は、滝のあご下に銃を突きつける。 「・・・・ムダだよ、宇田島。そんなオモチャプラスチック弾では何も出来ない 撃ったは良いが頭を吹き飛ばされて終わりだよ・・・・」 「・・・・・・・・わかってたんですね」  滝の言葉に驚した顔で言う宇田島は、ゆっくりと銃を戻した。  滝も銃を戻し、立ち上がると「当然だ!誰が貴様のケツの世話したと思ってるんだ!」そう厳しい言葉を吐き、 宇田島を見下ろす。  宇田島は、苦笑いを浮かべて気絶した。     * 目覚めた宇田島は滝の車に乗せられていた。 「滝さん」 「目が覚めたか」 「・・・・夢を見ました、"あの頃"の夢を・・・」  宇田島は、またゆっくりと目を閉じた。  滝は、車を小さな町病院の前に停めた。 第二章:第二話 差     了

 でかでかと『都内連続放火殺人事件』と記されている新聞を宇田島は、病室でそれを苦々しい顔で見ている。
 その傍らには、制服姿の初老の男が腰掛けていた。
「明、後任は関川と九条に任せてある、お前はしっかり傷を癒せ」
  新聞から目を離さない宇田島の肩を、そう言いながら初老の男は叩いた。
 それに、宇田島は新聞を閉じ、初老の男を見て「部長、あの二人じゃあ滝さんは」そう言いいだした時、「わか
っている」と初老の男は肩をもう一度叩いて立ち上がった。
 宇田島は、彼のその答えはわっかていた、しかし、自らの希望―任務の復帰もこの状態では無理なのは理解して
いたし、何よりもあの滝和也の怖さを再認識させられたばかりだ。
「それと、明、病室では父と呼んでも構わないんだぞ」
  うつむいた宇田島を見て、そう言いながら病室のドアに手をかけた初老の男に、宇田島は生返事を返すだけだっ
た。
 病室のドアが閉まると、宇田島は新聞をベット下のクズカゴに押し込んで、体をベットに埋めた。

 
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第二章  邂逅
第三話 接触
 じっとりとした梅雨特有の空気と、深夜を過ぎても止まない雨は、美海の神経を逆撫でする。  ふと、時計を見れば深夜3時をまわろうとしていた。   事の発端は、知り合いのチーフプロデューサーに「今回の連続放火魔のスクープ取れたらスタジオキャスターに してやるよ」と言われたことから始まった。  最初は冗談だと思っていたが、二、三日経ったある日、その放火魔の、次に狙うポイントの詳しい時間と場所が 明記されたものが、そのプロデューサの名で送られてきて、本気だったと美海は思ったのだが、待てど暮せどまっ たく姿を現せない。  書いてあった時間から早くも二時間以上経っている。  ターゲットと思われるビルも変わった様子が無い。  担がれたと思った。  しかし、それだと無理矢理付き合ってもらってるカメラマンの佐川さんに悪いし、何よりも機材を自分の車に無 理に、詰め込んでまで来た意味が無い。  ふと、そんなことを思い、意外にも自分が意地になってることを再確認すると思わず苦笑した。  その時、ガラスが破裂する音が響いて、目の前のビルからすさまじい勢いで炎が舞いあがった。  美海はやや驚きながらもそれを凝視し、その炎に照らされた人影らしきモノを確認すると、美海は眠り始めてた 佐川を起こし、人影に向け車を発進させた。 *  響き渡った破裂音に、滝はつぶっていた瞼を開いて、車を発進させた。  それは"業者が使いそうな青いミニバン"だ。  滝は道の端から出てくる、無灯火の赤い車を"確認する"と、アクセルを強く踏んだ。 ゴガンと激しい衝突音を響かせて、二台の車はぶつかった。  滝は横目でその赤い車に乗った、二人の人間を確認すると、エアバックで狭くなったシートを倒し、素早くシー トベルトを外すと、車から滑る様に降り、シートを戻す。  ドアを閉めながらその赤い車に近寄る。  窓越しに覗いてみると、中年の男と若い女性が乗っていた。  女が運転手で、男は助手席で業務用ハンディカメラを持っており、二人ともエアバックに突っ伏して気絶してい る。  滝は、二人に息があることを確認すると、足早にその場を離れ、近くの公衆電話から警察と消防に連絡した。  しばらくしてパトカーと消防車、それに救急車が来ると、滝はゆっくりと集まりだした人ごみに紛れ、事故現場 に戻り、救急隊とともに気絶した二人を助けて、自分の"白銀色の車"に戻った。    *  美海は、朦朧とする意識の中、誰かが自分を抱き起こす感覚を感じた。  まだはっきりとしない意識だったが、ぼやけた視界は確かに見たことのある姿をとらえた。  それは救急隊員ではなく、見覚えのある白いスーツと、あの雰囲気を持った者だ。  あの、最初の現場で見たあの・・・。  美海は声にならない声で「あなたは?」と、呟くように言ったが、誰も気づかない。  しかし、美海はそのスーツの男の顔を、ぼやけながらも見つめていた。  そして、また意識がまどろんだ。    気が付くとそこは病院のベットの上だった。  わずかに頭痛がする。  それでも、すぐに重たくなった頭で、昨日のことを思い出す。 ビルの炎上、走って来たバンに衝突、そして・・・。  わずかに"あの顔"が頭に浮かんだ。 第二章:第三話 接触     了

 明け方になって、降り続いた雨も勢いをなくしていた。
  滝はタバコの煙をくゆらせ、ゆっくりと目を閉じる。
 ふと、一台の白いバイクが、小脇に停めた滝の車の側に、スーと音も無く近寄り停車すると、滝はドアのロック
を外した。
 バイクの男はスタンドを降ろし、バイクから降りると、滝の車の後部座席、滝の真後ろの席に座り、真っ黒なフ
ルフェイスのヘルメットを脱いだ。
「あと、都内は三件か?本郷」
「ああ、そろそろ出てきても良い頃だろう」
 滝はゆっくりとタバコを消す。 
「それよりも滝、今日の奴等は?」
「ただのテレビ局だ、情報の出所はどうせ公安だろう」
「・・・安い連中か、お前についてた奴等はどうした?」
「"中華料理屋"に渡した、消しても良かったんだが後々面倒だからな、それに、獲物も増やしときたかったからな」
 滝はそう言うと、右胸からブローバック式のコルトを出した。
「ま、どうせ摸造品だろうがな」
 そう言いながら、滝は銃をしまい、エンジンを温めるようにキーを回した。
 エンジンの駆動音が響くと、本郷はヘルメットを被り「少しは寝ておけ、また今夜あるぞ」と言い、車を降りた。
 バイクと車はそれぞれ別々の方向に走り出した。

 
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第二章  邂逅
第四話 闘走
 病院の外に出た美海は、一人の女性を見つけ、傘をさしつつ小走りに彼女に近付いた。 「須堂さん」  美海はやや驚いた声をあげ、彼女、須堂尚子に礼をした。 「やってくれたわね」 「すいません」  美海は尚子のその言葉にただ謝るしかなかった。  美海のその表情に尚子は、溜め息を一つし「塚本さんが辞めたわ」と言う尚子のその言葉に、美海は驚いて目を むいた。  塚本は美海に今回の情報を提供した、あのプロデューサーだ。 「あなたは親しかったみたいだからね、一応知らせとくわ」  そう言う尚子に、美海が生返事を返し頭を一回下げると尚子は「ああ、それとこれ」と、ポッケトから一枚のフ ロッピーディスクを美海に渡した。 「塚本さんからよ」  不思議そうにフロッピーを見つめる美海に、尚子はそう言いと「今日は一応欠勤にしとくわ」と言い残して美海 の前から去って行った。  美海は頭を下げると、もう一度フロッピーを見た。   *  低いエキゾスソノートスが、暗い待ちに静かに響いた。  真白なボディーに、紅蓮に燃える炎のような朱を引いたバイクが走り行く。  滝はそのバイクの後を、軽トラックで追う。  しかし、その距離はひどく離れていて、ライトを点けてもその姿が見えない程だ。 『滝!』  右耳に入れたワイヤレスのマイクイヤホンから本郷の声が響いた。 「どうした!?」 『来たぞ!!』  その滝の問いに、本郷の強張った声が響いた。                     *  ウオン!!  まるで威嚇するようなエンジン音をたて、3台のバイクが本郷を囲んだ。  それらは本郷と同じく、髑髏のマスクを被り、真白なボディーに炎型の朱を引いたバイクに跨った異様な集団だ。  一台が本郷の前につき、残り二台は両脇にピッタリとついた。  本郷は徐々にブレーキをかけて、減速をはじめるも、3台は等間隔に距離を取り離れない。  目の前の一台も同じように減速したとき、本郷はアクセルを開けて、加速した。  ガッ!!!ゴオン!!  激しい衝突音が響いて、目の前のバイクがバランスを崩し、倒れこんだ。  本郷は全力で、体制をたて、そのままそのバイクもろ共乗り手を踏み轢いた。  ゴギンと金属音が響いて、その髑髏男が宙を一回転して地面に落ちた。 第二章:第四話 闘走     了

 それは数時間前のことだった。
 美海は手渡されたフロッピーを自室のパソコンに入れ、その中身を見てみた。
 中には非常に小さなテキストファイルが収まっており、その中にはまた、日付と時間と場所だけが書かれていた。

 美海は戻って来たばかりの自分の車に、デジカムを持ち乗り込んだ。
 まだ修理にも出していない車は、痛々しい傷がのこるも、エンジンは勢い良く車体を揺らした。
 人気のない夜半を過ぎた街を裏路地を抜けて、もう誰もいないオフィス街の一本道を走ると、やがて街路樹がま
ばらになり、小さな住宅街を抜け郊外へと出る。
 一つ道を右に折れると、フッと強い光が車を包んだ。
 
 
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第二章  邂逅
第五話 追撃、接触
 滝はアクセルを勢い良く踏みつけ、スピードを上げた。  それでも重たい軽トラックで、本郷のあのバイクに追い付けるかは怪しい。  その時、フッと何かがすぐ横を通ると、目の前に人らしき影がライトに照らされた。 「なっ!!」  滝は驚いた声をあげ、ハンドルを激しくきった。  するとすぐにゴンッ!ゴリリッと後部から不気味な振動がし、車はコントロールを失いスピードを保ったまま斜 めに流れた。  その滝の乗る軽トラックの目の前に、不意に一台の車が現われた。  滝はブレーキを踏み込むも間にあわず、凄まじい衝突音を響かせ、互いに、  滝は身体が斜め前に引っ張られているような気がして、目を覚ました。  良く見れば車が横転して、身体がシートベルトだけで支えられている。  滝はまだ朦朧とする意識を奮い、足を助手席のドアに降ろし立ち、最早ひびだらけのフロントウィンドウを突き 崩し、外に出る。  外には見覚えのある赤い車がひしゃげて、鎮座していた。 「・・・・あれは」  滝は額の血を拭い、その車に近付いた。  車にはやはり見覚えのある女性が乗っている。  滝は銃尻で運転席の窓を割ると、ロックを外し、渾身の力を混めてひしゃげたドアを開け、彼女を抱き起こて降 ろし、足早に車から離れた。  滝は十メートルほど離れると、膝を崩すように降ろし、後を振りかえってさっきの人影がどうなったのか見つめ るが、雨のせいもあり何も確認出来ない。 「・・・うぅ」   不意に彼女が、目を覚ました事を告げるように呻いた。  滝は彼女の顔を見返す。  その時、後から強烈なライトが滝等を包み、迫ってきた。  それは本郷の乗るバイクと同じ形の、白く、巨大で、朱色の焔を模した模様を纏ている。  逆光の中にうっすらと紅い、二つの光が煌くと、。滝は握った銃を躊躇いもなく、その光に向けて撃った。  パーンと、破裂音が響き、二つの赤い光がフッと消えると、バイクはコントロールを失い、滝等の横をかすめ、 ガードレールに突き刺さり、崩れるように止まった。  彼女は朦朧としている意識の中で、滝の顔を見つめていた。                        * 本郷を中心に、三台の同型のバイクが猛スピードで並走する。  やがて両脇の二台のバイクが間を詰め、乗るフルフェイスの髑髏男が攻撃の体勢をとり、身体をずらす。  本郷はそれを横目で確認すると、身体を右側にずらし、拳を振り上げた。  しかし、右側の髑髏男は身を低くして、拳を避け、さらに間を詰める。  左側の髑髏漢も間を詰め、拳を降り上げ、本郷の背に向けて降ろしたが、本郷はそのバイクの腹を蹴り、突き放 す。  すると今度は右側の髑髏男が、ハンドルに戻した本郷の腕を掴んだ。  振動が始まる。  本郷は無理矢理ハンドルを切り、左側の髑髏男に全身をぶつける。  右側の髑髏男もそれにつられて、タイヤが浮き上るほどに激しくカーブし、バイクのみが投げ飛ばされた。  本郷は左側の髑髏男をそのままガードーレールに圧しつけ、引きずる様に走る。  バイクを失った右側の髑髏男も引きずられながらも、その手を離そうとしない。  本郷は左側の髑髏男にも注意しながら、食い下がる様に右手を掴む髑髏男の頭をヘルメットごと踏み潰した。  振動が止まり、右側の髑髏男は血を道路に付けながらその身体を本郷から離した。  左側の髑髏男もやがて限界になり、終に左腕を吹き飛ばして崩れだした。  そして、鉄と肉の塊になって後に転げて行った。 第二章:第五話 追撃、接触     了

 三つ目の信号を抜け、小脇に採石場を眺める崖道に入った時、また後からプレッシャーが伸びてきた。
  本郷はチッと舌打ちをすると、バイクから飛んだ。
  バイクはそのままゆっくりと停車し、自らスタンドを降ろした。
 本郷はゆうに、30メートル以上はある下の採石場に飛び降り、上を見上げた。
 すると、黒い点が三つ、本郷に向かって落ちて来る。
  三つの黒点が実像を結びはじめ、片足を突き出した三人の髑髏マスクの男の姿がはっきりと見えた瞬間、本郷は
後に飛び退く。
 三人の髑髏男が着地すると、激しい土砂が舞い上がった。
 
 
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第二章  邂逅
第六話
 雨に打たれ横たわる、本郷のモノと似た髑髏マスクを付けた男。  その額には、滝の放った銃弾が深々とめり込んでいた。    滝がその髑髏男を確認するため、彼女を抱えたまま立ち上がると、不意に甲高いサイレンの音が聞えた。  滝は、彼女を抱えたままその場から逃げ去った。 まだ見つかる訳にはいかない、その思いがあったからだ。  滝は息を切らせながら一キロ程走り、予定してあった、自の車を停めてある無人駐車場に入り、自車である、 白銀色の車の後部座席に、彼女を横たえたまま押し込み、キーを回した。  エンジンをスタートさせて、道に出ようとした時、彼女の目が覚めた。  呻きながらも、ゆっくりと身体を起こす彼女を、バックミラー越しに見た。  滝は、車を道に半ば出しながらブレーキを踏む。 ギッと車全体が軋むと、彼女はふら付きながら滝の座席を掴み、滝の顔を見る。 「・・・あなたは?」  まだ朦朧とする意識でそう尋ねる彼女に、滝は銃を抜きつき付ける。  ビックと彼女は身体を震わせて、退き、硬直する。  滝はバックミラーで彼女を確認しながら、銃を小脇から向ける。  その時、ゴンッと、車のボンネットが揺れた。 *  土砂が雨とともに落ちる。  その土砂の中から真紅の双眸を光らせ、一体の髑髏男が拳を突き出し、飛びかかって来た。  本郷はそれを避けると、その背中に蹴りをくらす。  その瞬間。  本郷の背後にプレッシャーが走り、本郷は降り返る。  すると、二体の髑髏男が本郷に向かい高速で落下して来た。  本郷は倒れこむ様に前方に転がった。  再び激しい土砂が舞いあがる。  本郷が素早く体勢を立て直し、立ち上がると、その土砂を割って、一体の髑髏男が飛び蹴りを繰り出してきた。  本郷はカウンター気味にその髑髏男に拳を繰り出す。  その髑髏男の蹴りは本郷の脇をかすめる、そして、本郷の拳はその髑髏男の額にめり込むと、髑髏男は首をひ しゃげさせて、四回転ほどしながら地面に頭から落ち絶命した。  その瞬間、本郷に再び新たな髑髏男が一体向かって来た。    * 緊張した静寂の中で、雨音だけが響く。  フロントウインドウ越しに一人の男が滝の前に立っている。  顔はちょうど隠れていて見えないが、その姿には見覚えがあった、あの髑髏男だ。  その髑髏男がボンネットに片手を降ろすと、グラリと身体を崩し、ゴンッとボンネットに倒れた。  滝は驚しながらも後の女、美海に気を張らしながら車を出、その髑髏男らしき者に近付く。  その髑髏男のマスクは半分砕けて外れており、あらわになったその額から僅かに血が流れている。  滝はなぜかその髑髏男を掴み、自車のドアまで引張っていた。 しかし、髑髏男は重く、ただ引きずるだけだった。  チラッと美海を見る。  美海は少し怯えながら、髑髏男の肩を掴んで引き上げ様とする。  しかし、女性の力では当然持ち上げることは出来ない。  滝は後部座席に入り、美海と共に髑髏男を何とか引き上げた。 その髑髏男をシートベルトで固定するとドアを閉め、運転席に戻り息を吐く。 滝は外に立ち尽くす美海を見ると、彼女を助手席に座らせた。  真横に座った彼女をチラッと見ると、滝はギッと奥歯を噛み、ギアを入れて本郷を追うために車を発進させた。 第二章:第六話 闘     了

  ガンとハンドルを叩き、バックミラーに映る男をチラッと見た。
 滝はいい加減、自分の迂闊さに怒っていた。
 それも当然であろう、焦っていたとは言え、三日前にカメラを携えた男といた、あからさまに怪しいこの女を連
れて来たことに加えて、いつ目覚めて襲ってくるやもしれぬ後の男。
  だが、思わず助け、引き上げてしまった。
 それも、その姿が"あの時"の本郷とダブったからだ。  

 
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第二章  邂逅
第七話
 金切り音を響かせた拳が迫る。  本郷は苦戦を強いられていた。  自分と同じ能力を持った、同一の敵と闘っているのだ、無理もない。  一体は撃破したが、まだ二体いる。  しかも今、目の前で拳を交わすこの男だけで手一杯だ。  後一体は姿を眩ませ、いつ襲って来るとも知れぬ。  耐えがたい緊張感、紙一重の生死を賭けた攻防、激烈な攻撃、精神力が悲鳴をあげる。  ギリッと奥歯を噛み、拳を払いのけ蹴りを繰り出す、目の前の髑髏男は身を低くしそれをかわし、軸足にタック ルをかける。  本郷は一瞬よろめくも、上げた足を降ろし踏み留まり、掴んだ手を強引に外す。  その瞬間、身を低くしたままのその髑髏男から、金切り音を響かせた拳が繰り出された。 下を見ていた本郷の反応が一瞬遅れ、左腕をすり抜け、その拳は右胸に突き刺さる。  本郷も身体を後に退くも間に合わず、右胸の装甲は悲鳴に似た破裂音を響かせて砕け散った。   *  ゆっくりと誰もいない路地を走る白銀色の車。  べったりと窓に貼り付く雨を眺め、美海は思いあぐねいていた。  横にいるいのは自分を助けてくれた男、しかし、気がつくと銃を向けられ、あからさまに怪しい後の男を助けた。  しかも今はそれを悔やみ、自らの行動に苛立ってることは明白だ、その行動は酷く支離滅裂で理解しかねる。 美海は少々怪訝な表情で彼を見た。  男はだいぶ落ち付きを取り戻したようだ。  その時不意に、「おい」とその男が声をかけてきた。  それに美海が「何?」と強張った声で聞くと、男は「お前は誰で、あそこで何をしていたか話せ」と銃をまた向 けて冷淡に聞く。 美海は仕方なく洗い浚い喋った。  自分の名前から始まり、職業、三日前の事故、もらったデータ、今回のこと、そして、以前彼を見たこと。   「なるほど・・・・」  それにそう答えた男の声は少し強張っていた。  美海はそんな彼を見、「・・・・ねえ、ここまで話したんだから、名前くらい教えてくれない?」そう問うた。  それに男は「・・・・滝和也だ」と小さく応えた。  車は山道に続く通りに入る、もとの道だ。                    *  破壊された破片を撒き散らしながら、地面を飛ぶように転げる本郷は、腕を地面にめり込ませなんとか身体を止 めた、その瞬間、本郷に向かって一体の影が飛びかかる。 左足を突き出して、落ちるように襲いくる髑髏男の姿を確認した本郷は、片腕で飛び、カウンターになるように 蹴りを繰り出す。  本郷の蹴りは、その髑髏男のたたまれた右足に当り、その髑髏男の右側全てを突き崩す様に蹴りあげた。  しかし、その髑髏男の蹴りも右腕にあたり、右腕全てを吹き飛ばした。  二体は崩れ落ちるように地面に落ちる。 本郷は荒いだ息をあげながら立ち上がる。  右側を吹き飛ばされた髑髏男が、虫の息で転がっているのが見える。 しかし、それは本郷とて変わりない、右腕を吹き飛ばされ、血流は止まらない、出血多量で気を失うのも時間の 問題だ。  そんな本郷に、最後の髑髏男が迫る。    第二章:第七話 戦      了

 足がふらつき、鈍痛が頭を襲う。
 血が絶え間なく流れ、意識を混濁させる。
 しかし、動かないわけにはいけない。
 目の前に迫る最後の髑髏男、これを倒さぬかぎりは。

 
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第二章  邂逅
第八話 苦笑
 ゴッ!!  拳を拳でいなす。  しかし、残された左腕だけでは限界がある、現に、身体にその攻撃が幾度となくかすめてる。  本郷や髑髏男の拳や足は、高性能のトランジェンサー(振動子)だ、かすめただけでもその身体に巨大なヒビをつ くり、その耐久力を奪ってゆく。  加えて、片腕を失った本郷は、その傷から絶えず多量の血が流れ、意識も混濁し始めていた。  重たく素早い髑髏男の攻撃全てに、突きあってる余裕などない。  本郷は決した、”一撃に賭ける!”と。                 * 「ねえ、銃を下ろしてくださらない滝さん?」  美海は声の震えを抑えるように言った。  しかし、滝はその言葉に意を解さぬようにアクセルを踏んだ。  答えは最初っからノーとはわかっていたが、返事くらいしても良いものなのに・・・・・。  いやな奴。 美海の滝に対する思いは、以前あった恋心にも似た、感謝の印象を完全に忘れ、今は嫌悪感だけに占められいた。  如何に助けられた恩があるとはいえ、銃を突きつけられ、なかば脅されたように根掘り葉掘り聞き出されたうえ、 今度は無視である、好印象も悪意に変わろうというもの。  しかし、脅して情報を聞き出すために助けた様には見えない、ただ本当に、とっさに助けたのだとは思えた。  だが、人を助けることは信用に値するが、この状態ではその思いも薄れる。  そんなことを考えたその時、ギッと不意に車が止まった。  フロントウィンドに、崖前のガードレ−ルに寄りかかる白いバイクが映った。 *  チャッ。  滝は車を降り、その白いバイクに近づいてみる。  雨に濡れたそのバイクは本郷のものである、そう滝は信じ、崖下を見下ろした。 瞬間、滝は驚いたように身を一旦ひくと、もう一度、今度は身を乗り出すように崖下を見た。 崖下には4つの人型が倒れているが、その人型はどれもまともなモノはない。  首の無いもの、半身の無いもの、頭が潰れたようなもの、そして、一番軽症に思える片腕の無いもの。  滝は息を飲んだ、もしどれかが本郷であっても、生きているのは難しいだろう、出来ることならば首だけは残っ ていて欲しい、愛子のためにも。  そう思った滝の脳裏に、かつて本郷の亡骸を最初に見た愛子の顔が浮かんだ、その顔は泣くわけでも叫ぶわけで も、驚いた様子も無い、まるで無機質な人形の様だった、本当にただ、糸の切れた人形のようにしゃがみこむ彼女 の姿が今も脳裏にフラッシュバックした。  滝は奥歯をギッと噛むと、車に乗りなおし、崖下に下る坂道に車を向け、ライトで照らす、照らされた道には通 行止めに黄色い看板が塞いでいたが、滝は構わずその道に車を入れ、看板を踏み潰し走らせる。  滝の頭は本郷を確かめることで一杯で、そのときの美海の行動には気づいてもいなかった。   *  降り注ぐ雨粒を寸断するような、鋭く素早い拳が本郷に迫る。 しかし、本郷は避けようとはしない、まるでその拳が当たるのを待ってるようだ。  ゴッわずかに拳が本郷のマスクに触れた瞬間、本郷は身をよじる様に回し、その拳を外に促し、残された左拳を、 その遠心力で、髑髏男の後頭部に叩きつける。  そして、髑髏男の身体がバランスを崩すよりも早く、ボンッと破裂音とともに、髑髏男の頭が吹き飛んだ。  だが、本郷もダメージが無いわけではなく、マスク一面に細かい亀裂が走り、小さな破片になって砕け散った。  その素顔があらわになり、額からスウッと、血が流れると、本郷はそのままゆっくりと倒れた。  雨は絶え間なく降り続け、鮮血混じりの水溜りを幾つも創る。 本郷は薄れゆく意識の中、血溜りが自分を囲んでゆくように思えて、苦笑した。 第二章:第八話 苦笑      了

 混濁した意識の中で、わずかに覚えのある声がした。
 だが、それを確かめることも出来ぬほどに衰弱しっきている。
 血がたらない。

 
THE MASKD RIDER REBORN
第二章  邂逅
第九話 反撃と
 がたがたと砂利道を降りる振動が響く。  美海は滝の姿を見ながら、ゆっくりと自分の内股に手を入れた。  彼は焦りからか気づいていない、さっき彼が車から離れた時、ダッシュボードから銃を抜いて内股に隠したこと を。  その滝の顔は、目に見えるほど脂汗を滲ませ、唇をやや紫がからせていた。  ガッタンと車体が落ちる様な諸劇が響いて、採石場に着いたことを知らせる。  ジャリジャリと小石を踏みしめて車は採石場の中ほどまで入って行く。  やがてあの死体らしきものが転がる辺りで車を停めると、滝は降り片腕の無い死体の前で足を止めた。  美海はチャンスと思ったが、車のキーはやはり抜かれている。  息を深く吸い込むと美海は車を出て、滝の頭に向けて銃を構え「動かないで!!」と叫んだ。  滝はゆっくりと振り返った。                *  滝はしゃがみこみ、覗きこんだその片腕のない男は、間違いなく本郷だった。  滝は奥歯を噛み、本郷に手をかけようとした時「動かないで!!」と美海の声が響いて、滝は手を引き、ゆっく りと立ち上がりながら振り返ると、いつの間にか予備のベレッタを構えた美海が、車を盾にして立っていた。  滝は自分の迂闊さに苛立って、溜め息を深く吐くと、美海を見直した。  一瞬「殺すか?」とも思い、左胸を見たが止めた。  それというのも、自分が殺した死体を残すわけにはいかないからだ。  組織は自分を動けなくさせようと思っている、だからわざわざインターポールに自分を送るのだし、それまで公 安の見張りを付けているわけだ。  インターポールへの派遣は止められないにしても、公安の目や書類はごまかせる、髑髏男を殺しても組織が片付 ける、だが、普通の死体が見つかってはどうしようもない、しかも自分の銃弾で死んだ人が見つかっては。  腐っても公安、逮捕され、留置されるのは簡単だろう。  しかし、のんびりと説得している暇は無い、まだ本郷の生死も確認していないのだ。  いくら相手が撃つ度胸や覚悟がなくても、近づくのは軽率過ぎる。  問題なのはあれが自分の銃であることだ、もし撃ったら当たらなくても銃弾が残り、そこから購入ルート、そし て所持者である自分が判明する。  特にあれは、普段携帯しているのとは違い安全ではない。  公安が掴めなくても、組織が掴み、公安に情報を流すだろう。  刑務所に送還されなくても、派遣日まで留置されるのは目に見えてる。  滝は美海を睨みつけた。                      *  美海はその滝の眼光に少し怯むも、「キーを、車のキーを渡して!!」と凛とした声で叫んだ。  しかし滝は応じない。  雨音だけが響く。   美海が深く息を吐いて、震える両手を屋根に載せたその時だった。   チャッと後部座席のドアが開き、あの男がのっそりと出てきたのは。  美海はつい身を引いてしまった。    *  美海も滝も一瞬怯んだ。  しかし、滝は美海が身を引いたのを見逃さなかった。  とりあえずは男を無視して美海に突っ込む。  美海は一瞬驚した顔をして、銃を構えなおしたが間に合わず、滝が銃を掴む。  オートの銃だ、スライドを掴めば撃鉄は上がらない。 「ああ・・・」   美海は撃鉄が上がらないことに焦りの声をあげ、滝を見た。 滝は強く美海を睨んだ。  銃がするりとその手から離れた。 第二章:第九話 反撃と      了


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