THE
MASKEDRIDERREBORN

第二章 第三章


 滝が、白い廊下に横たわる灰髪の女性に、背広の右内ポケットから出した黒い手錠をその細い手首にかけ、銃弾
がめり込んだ真鍮色の髑髏マスクを外す。
  あらわになった彼女の顔には、額から瞼と頬を通り、耳裏まで達する、深く鋭い傷が刻まれていた。
 彼女をゆっくりと起こし、隊員のもとに駆けよる。
 髑髏男は、彼女を凝視していた。

THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
第八話 理由
「この人、蜂堂時子じゃないですか?」  目覚めた隊員が、彼女の顔を覗きこんでそう言った。 「ホウドウトキコ?」  滝がそう、不思議な顔で言うと、その隊員は彼女について語り出した。 「はい、もう何十年も前になるんですけど、美人女優として一世を風靡したんですよ、確か。  でも、40代になったら、ぷっつりと姿を見せなくなって、その後の消息もわからなかったんです」 「なるほど、彼女はその女優に似ていると?」 「いえ、似ているどころか、傷が無かったら20代の頃の彼女そのもの、ウリフタツですよ」   と、隊員は滝の言葉に少々大袈裟な顔で言う。  すると、「フフフ」と、その彼女が笑みを漏らし、ゆっくりと立ちあがった。  とっさに、隊員は銃を構えるが、「そんな弾の切れた銃で何をするの?」と、彼女の言葉に、銃を見なおす、確 かに銃には弾が一発もなく、排薬莢が詰まっているだけだ。  隊員は奥歯を噛みしめ、苦い顔をする。  それを一瞥した彼女は、笑んで、その艶やかな唇を動かし、語り出した。 「そう、私は蜂堂時子本人よ、どう?この身体、若く見えるでしょ?  でも、本当はもう70を越えたおばあちゃんよ、・・・・それでも、この身体は本物。  私はねえ、この身体を得る為に"彼等"に、私の持つモノ全てを捧げたわ、でも、そううまく話がいくはずもない、 当然問題はあったわ、この傷よ、それでも、これですべてが叶うはずだった、でもこうなってはもうダメね・・・」  曇った笑顔でそう言う彼女に、滝が「"彼等"とは?」と聞くと、彼女は笑んで、「そう、まだその謎にもいきた っていないのね」そう言い、滝に近付いた。  彼女は滝の瞳を覗き笑みながら、「あなたのよく知るモノよ・・」そう言い、「ねえ?GAIA1」と、髑髏男を見 て言った。 「・・・・金も家も家族も愛するモノでさえ失って手にいれたいのか?若さを?」  笑んでそう言う髑髏男に、「あなたはどうかしら?GAIA1?」と、彼女は振り返りながら言う。  ふと、ハウリングが通路に響いた。  ハウリングと雑音が治まり、あの声が響いた。 『VENUS3、いかんな、ペラペラと。』 「あんたもうるさいよ"D"どうせ私はこのまま死ぬんだ、騙されたままじゃあ癪だからねぇ」  その声に時子はそう言い、壁を蹴った。  ヒールの音が響く。 『・・・・・じゃあ、死ぬがイイさ』  声がそう言うと、時子はうずくまり「これだから男は嫌いさ・・・」と、悪態を呟き倒れた。 「・・・・死んだ」  静まりかえった、廊下の中で、髑髏男がそう呟いて、また歩き出した。   * 髑髏男を見据える。  非情とも言えるその態度に、滝の脳裏に疑問がよぎる。  いや、最初から、何も疑することなどない、目の前にいるこの男は"彼"ではない。  自分が勝手にかつての"彼"とイメージを結びつけただけだ、こいつは"あいつ"じゃない。 「幻想に縛られるのはもうよそう」  滝はそう口の中で呟き、銃を抜く。 隊員達が滝を仰ぎ見る。 「止まれ!!」  滝のその怒声が響くと同じに、シューシューと、不気味な音が道の先から響いた。 第八話 理由   了

 シューシューと不気味な音と、何かを引きずる様な音を、通路の向こうがわから響かせて、得体の知れぬ何かが
近付くのを感じた。
 思わず銃をおろした滝は、白い廊下の向こうがわを凝視した。
 ゆっくりと、髑髏男が腰を落とし、戦闘体勢をとる。
 ビリビリとした殺気が、耳裏で痺れた。

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第一章  再会
第九話 炎蛇華
 シューと、不気味な音を響かせるモノが、その姿をあらわした。  それは赤子ほどもある、茶緑の巨大な蛇の頭だ。  内側に巻く様に続く、この白い廊下の向こうに、その蛇の身体は隠れ見えない。  どれほど巨大な胴が続くのかと思えるほど、巨大なその蛇は、ゆっくりと鎌首をあげ、あの、シューシューとい う、不気味な音を響かせながら、ヌウッと、その身をうねる様にあらわした。  その大部分は見せないものの、その巨大さと、凶悪さは目に見えてわかる。  頭をまったく動かさず、胴だけをくねらせ近付く巨大な蛇、シューシューと変わらず無気味な音を、どこからか 響かせる。  真白な通路の所為か、それとも、巨大なこの蛇の所為か、いまいち距離が掴めない。  撃鉄を起こし、銃を構えなおす。  その巨大な蛇の、攻撃的な瞳に向け狙いをつけた。  シュッ!!  髑髏男が飛び、滝が引き金を引くと、巨大な蛇は首周りに巻いたヒレを広げ、その大口を開く。  髑髏男が天井を蹴り、反転して繰り出す蹴りをかわし、破裂音と同時に発射された滝の銃弾をも避け、その口内 から伸びた長大な牙を剥き出し、滝に迫る。  いやにゆっくり見えるものの、脳から身体に"避けろ"という命令が伝わるより、遥かに速く、その牙が身体を突 き刺すのは明らかだ。  死を直感した。   *  滝は何が起こったのかわからなかった、ただ気がついたら、瓦礫の上に仰向けに倒れていた。 背中を中心に、鈍い痛みが走ったが、動けないほどではない。  滝は身体を起こす、血は出ていない様なので、あの巨大蛇(コブラ)に噛まれたわけではない様だ。  あたりをゆっくりと見ると、愛瓦図白い廊下が続くものの、天井にはぽっかりと穴が開き、眼の前には、瓦礫が 山の様に積み重なっている。  後の方に、気絶した二人の隊員も確認出来た。  まだ痛む身体を立たせると、その隊員を起こし、三人で瓦礫の山を見てまわった。  太いケーブルの様なモノが天井から垂れ下がっている。  髑髏男の姿が見えない。 滝はそう思いながら注意深く瓦礫の隙間を見ると、ガタと、何かが崩れる音がした。  滝は立ちあがると、瓦礫の山の一端が盛り上がり、あの巨大コブラが大口を開けて飛び出た。  ギョッとした顔で銃を構え、ケーブルの向こうまで一気に走った。  隊員達も後につづく。 巨大コブラは大部分が瓦礫に埋まり、うまく身動きが取れない様だ。  滝は引き金を引く。  銃弾が走るも、またも巨大コブラはするりとかわし、滝に襲いかかろうとするが、眼の前に来ると瓦礫に挟まっ た身体が邪魔をして、完全に突っ張ってしまい動きが止まる。  苦々しい顔で滝を見、頭を下げると、牙を突き出し、ビュッと、牙の先から半透明の黄色い液を飛ばした。  滝は太いケーブルの裏に隠れる。  黄色い液は恐ろしいことに、瓦礫の上に落ちるとみるみる溶かし、焦げ臭い異臭を放った。  あのコブラの毒はどうやら恐ろしいほどの強力な酸の様だ。  床まで溶かし始めたその酸を見て、滝はゾッとした、噛まれてももちろんだが、顔を出しても死ぬことは確実だ ろう、いかに太いこのケーブルも見る間に溶かされてしまうのは明らかだ。  ふと、そのケーブルを見直すと、明らかにおかしかった、段が掘り込まれ、わずかに動いている。  あの蛇の腹だ!  滝は青ざめ身を低くした。  その巨大さにも当てられたが、何よりも、気付かないほどの動きだったが、今は目に見えてわかる。  パラパラと頭の上に砂粒が落ちる。  ズルズルと胴が降りはじめた。 血の気が引く。  瓦礫が音を立てて崩れ始める。 隊員達は固まって動かない。  不気味なシューシューという音を再び響かせ、瓦礫を崩しながら巨大なコブラはその身を伸ばした。  ヒレをビンと張ると、その両端についた十本の指の様なものを蠢かせ、大口を再び開く。  気付けば目の前の胴は大分細くなり、尻尾に近かづいていた。  砂まみれの頭を振り、銃を構え、一つ上の天井スレスレのところで大口を開ける、その頭に狙いをつける。  撃ったところで当りはしない、これはプライドの問題だ。  撃てばあれは襲いかかって来るだろう、しかし、ただでは死なない!噛みつかれたら頭にしこたま鉛弾を食らわ せる!!  "死なばもろ共"そんな言葉を頭に過らせて、滝は、尾が落ち切ると、銃を撃った。  やはり弾丸は難なくかわされ、巨大な牙が迫る。  避けられるはずもない、滝に出来る子とは銃の撃ちやすい位置を噛ませるくらいだ。  胴体まですっぽりと含めそうな巨大な口が迫る。  ふと、目の端に黒いモノが走ると、巨大コブラの頭が、眼の前から消えうせた。  唖然とする滝の目の前に、突然髑髏男が現われた。 不気味な、真紅のまあるい瞳をボウッと輝かせると、破裂音と共に、肉片と鮮血が飛び散った。 巨大コブラは完全に潰され、死んだ。  強酸性の毒は、頭部を潰した為に、毒胞内の中和物質で(強アルカリ)すぐさま無害になった。  滝は唖然とした、全てがこの髑髏男の計算の様なモノだ。  床を壊し、瓦礫に埋められた巨大なコブラが、頭に血を登らして近くの俺達に襲いかかるのを計算していた、全 ては攻撃の瞬間の隙を突くためだ。  ゾッとする程の冷静さを見せつけられた気がした。  しかし、それはまるで、かつての旧友をダブらせる。  ふと、目の前の髑髏男が下を見ると、明らかに慌てた声で、「逃げろ」と叫び、滝を押し飛ばした。  滝が転げる様に飛ばされると、髑髏男の足元が光り、巨大な炎が辺りを包んだ。  まるで、狂い咲いた華の様に。 第九話 炎蛇華    了

 真白の空間を侵食するように燃えさかる、真紅の炎を、不意の水撃が治めた。
  壁に、黒いススを、爪痕の様に残たまま。

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第一章  再会
第十話 黒扉
 握り締めていた拳銃を胸元にしまい、ススでその模様を変えられた廊下に戻る。  ふと、床や壁が振動してるのが足に伝わり、空気の流れで、空調機が作動したのを知る。  ゆっくりと瓦礫の山だった辺りに歩み戻るも、瓦礫の山はほとんどめくれ飛び、さっきまでとは明らかにその様 子を変えていた。  黒焦げたコンクリートの塊や、突き破られた一つ上の天井を見渡すも、こびり付いたススの痕だけで、目的であ る、あの髑髏男の影は見当たらない。  ふう〜と、一つ大きくため息を吐くと「滝警部!こっちに黒い扉が!!」そう、小走りに生き残った若い隊員が叫 び呼んだ。 「どこだ!?」  滝はそう答えながら、もう一度だけ天井を仰ぎ見た。   * 黒い扉の前には、生残っていた、もう一人の、背の高い隊員が散弾銃を手に待っていた。  この黒い扉は何の変哲もない扉だ。  しかし、この長い廊下の終りを思わせるには、十分の説得力を持つ様にも感じる。  滝はしっかりとドアノブを掴み、ゆっくりと開いた。 中は薄暗く、オレンジ色の常夜灯が点くだけで、明かりらしき物は他に何もない。  白い廊下とは打って変わった、この薄暗い空間をゆっくりと見渡す。  人の気配はない。  滝等は十分に注意をしながら、中に入る。  中には床に一体になった、ディスプレイ付きの机が横に二列、真中が空いてるため四つあり、それぞれにモニタ が3個と、キャスター付きのイスが三つ並んでいる。  机の先には黒い巨大な箱の様な物が立っている、おそらくここのサーバーコンピューターの本体だろう。  滝はゆっくりと近付き、サーバの表面にあるボタン付きの取っ手に手を掛け、そのボタンを押すと、ガチャンと 音を鳴らし、ゆっくりとサーバの扉型のカバーが開いた。 精密機器特有の金属臭がするも、中身はごっそりと抜かれていて、もう機能しそうもない。 バンと、扉を閉めると、隊員の一人が扉を発見したと言ってきた。  その扉は部屋の右側にあり、エアロック式の引き戸だが、機能してないらしく、すんなりと開いた。 部屋は殺菌室らしく、紫外線ライトがぶら下がり、壁には無菌スーツが並んでいる。  左側にある、のれんの様な無菌シートのかかった通りを抜けると、またあった、エアロック式の扉を開き、左右 に広がった短い廊下に出た。 その右側には”BioRoom”と書かれたプレートと、小窓の付いた同型の扉があり、その機能してない扉を 開き、中に入ると、透明な筒の中一面に気味の悪い肉の膜が張り付いた物が、幾つも並んでいた。  それは無母体クローンを創る時に用いる、人工胎盤と言われるモノだ。  奥には白い壁一体の冷蔵庫らしき物があったが、中には何もなく、作動もしてはいなかった。  滝達は一旦その部屋を出て、もう一つの左の部屋に向かった。  それは"O.P.E.Room"と書かれているプレートが張ってある、やはり同型の扉だ。  ただし小窓はない。  中には消毒液の入った洗面台が二つ左右にあり、奥にはまた無菌シートで区切られた部屋があった。  シートの奥には流し台の付いた広いステンレス製の台と、コードの伸びたムービングチェアーベット(簡単に言 えば歯医者の椅子)が並んでいた。  消毒液の臭い以外にも何かが鼻をつくのを感じた。  血の臭いだ。  この流し台付きの台は解剖台だ。  ぐるっと辺りを見まわすと、右側に扉があり、床に血の様な後がわずかに残っていて、その奥に続いていた。  扉を開け、無菌シートをくぐり奥に入る。  そこには、異臭を放つ、バケツに入った何かの肉片が幾つか残されており、奥の壁にはダストシュートの穴がぽ っかりと空いていた。  なぜか、無性に怒りが沸いてくるのを感じた。  滝は、憤慨の瞳で部屋を出た。 第十話  黒扉    了

  滝等はコンピュータルームに戻っていた。
  憤慨した心を落ちつかせて、辺りを見まわす。
 なんとはなしにこの部屋の"おかしさ"を感じた。
  "どこかに何かがいる!”
 向かい側、部屋の左側の壁をじっくりと見ると、薄っすらとなにか溝が見えた。
 それは塗り固められたコンクリートだった。
 溝に指を掛け、力一杯引き倒すと、以外と簡単に外れた。
 剥き出しになるドア、それはまるで、隠すことによって、わざと怪しさをだして、中へと誘う様に思えた。

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第一章  再会
第十一話 赤銅
ドアの向こうは見なれた白い廊下だ。  ゆっくりと奥まで進むと、またドアがあった。  中に入ると、赤い常夜灯に照らされた、コンクリート剥き出しの階段が下へと伸びている。 その狭い階段を降りると、急に広い空間に出た。  階段はコンクリートから赤銅色の鉄の階段に代わり、まるで何かの工場の様だ。  目の前には階段と同じく、赤銅色の巨大なドーム状のモノがあり、階段はその手前にある四角い浮き部屋に続い ていた。  蛍光灯に照らされたその部屋の中は、どうやら何かをコントロールするための機械類とモニタ、それにマイクが あった。  どうやら核融合炉の制御機器らしい。 ガラス戸の向こうにある、赤銅色のドームを見た、おそらくあれが核融合炉そのものの様だ。 とりあえずドーム前に降りてみる。  カーンカーンと靴音を響かせ、赤銅色のドームを見てまわる。  塗り重ねた赤銅色の鉄肌は、血の冷たさを感じる。  一周するも、これといってなにもない。  しかし、なにか"おかしさ"は感じる。  何かが鼻をついた。 部屋に戻った滝は辺りを見まわす。  なにかの"臭い"それはそうまるで"獣"。  攻撃的な肉食獣のようなモノ。  銃を抜く。  すると、  ガッ!!  何かが弾き落とされた。  床に転がったそれは、青臭い体臭を放つ青緑の"何かだ”。  それが突如フッと消えると、「ぐっう!!」と誰かが呻いた。  バッと、声の方に振り向くと、若い隊員の頭を壁に押さえつける、まるで恐竜のような人間、いや、蜥蜴のよう な男、それがいた。  その蜥蜴男は、グパアッと大口を開き、その生々しい真紅の口内と、青紫の舌を覗かせて、あの通路で聞いた声 で、饒舌に喋りだした。 「ふっ、どうする?こうなったらどうする?滝和哉!そしてGAIA‐1!!!」  その言葉に滝はハッとした。  ゆっくりと、後に首をまわす。  そこには、あの髑髏男が立っていた。 *  傷痕も、焼かれた痕すらないその姿。  "戦神"何度目かの、その言葉が頭をよぎる。  と、同時に、あの懐かしき親友の顔をダブらせずにはいられなかった。  ふと、髑髏男が身震いする様にあごを引いた。  獣の青臭さが鼻を撫ぐと、  ガッ!!  不意に鋭い爪が生えた、青緑の長い指が首に絡んだ。  天井を見据えると、あの蜥蜴男が張り付き、自分の首を掴んでいた。 「はははは!!GAIA‐1!!どうする!?」  青臭い息を吐き、高笑いとともにそう叫ぶ蜥蜴男の肌が、スウと赤銅色の模様を浮かび上がらせた。  それはまるで血の炎。 敵意の体現だ。 滝はその炎に何か"怒り"を感じた。  あの、死肉を見た時の様に。 第十一話  赤銅    了

  グワッと開かれた口に立ち並んだ、肉切りナイフのような歯を見せ、高笑う蜥蜴男の肌に浮かぶ赤銅色の炎は、
滝の神経を高ぶらせる。
  銃を握る手に力が入り、ギッとその蜥蜴男の目を見据えた瞬間、パーンッとかん高い乾燥音を響かせて、銃弾を
その太い腕に打ち込んでいた。
 そして、たて続けに一発二発と銃弾を撃ちだす。
 もはや頭に冷静さはない、たぎった脳は何かを終わらせようとし、赤銅の炎模様は何かを思い起こさせた。
 忘れたい何か。
 しかし、この"忘却の森"に戻ってきたのはこの為だと記憶が叫ぶ。
 赤き赤銅色は、あの、仲間の、友の、死んだ、色。
  手に張り付く赤い色、あの冷たさは無機質な肉、それは錆びた鉄と同じ温度。
「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!」
  滝は知らぬまに咆哮していた。
 弾が費える。
 鼻を刺す火薬臭の煙が晴れ、赤銅色の炎がまた見える。
 傷一つない赤銅の炎は、ゆっくりと力が込められて、首にススッと、その鋭利な爪が刺さって行くのがわかる。
 おそらく、三本も入れば死ぬだろう。
 さっきまでとは打って変って、冷静な自分がそう言った。
  ただでは死ねない。
 まだたぎる自分がそう言った。
 しかし、どうしようもない・・・。
 二つの自分がそう言う。
 ・・・・・・・・・・・・・・死にたくない。
 ・・・・・・・・・・・・・死にたくない!
 ・・・・・・・・・・死にたくない!!
  ・・・・・死にたくない!!!
 ・・・死にたくない
 死にたくない!!!!
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・"このままじゃ死ねない!!!!!"
 
 ドグンッ!心臓が激しく脈打つ。
 熱い血液が全身を走り、血管が破裂するほど浮かぶ。
 ガッとその蜥蜴男の手をつかみ、指をこじ開けんと力を込める。
 ミシミシと音をたてて自分の指が食い込むも、まったく動くことはない、それどころか、逆に隙間が埋まり呼吸
が苦しくなる。
 それでもめげずに力を込める。
 蜥蜴男のざらついた皮膚は指の肉を切り、血みどろになるも諦めない。
 歯を食いしばる。
 それを見る蜥蜴男の目頭が引きつると、いかにも怒った瞳で滝を睨み、腕の力をさらにかけた。
 滝の体は持ち上がり、足が地面から離れる。
 二本目の爪が食い込む。
 しかし、喉ではなく指に刺さる。
 滝は血で襟を真っ赤に染めながらも、必死に抵抗を続ける。
  蜥蜴男の腕にいっそうの力がかかり、滝がその瞳に光を失いかけた時、ゴガッン!!と激しい衝突音を頭から響
かせて、蜥蜴男の体が天井から剥がれ落ちた。
 
 開放された滝は喉を押さえ、銃を拾いながら立ちあがっると同時に、また蜥蜴男が目の前に立った。
「グオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!」
  芯から震えるような咆哮だった。
「キサマ等全員殺す!!!」 
 例えるならばそれは巨大な粉砕機。
  それが襲いかからんと、目の前で鼻息をかけられてる様だ。
 目の前で首を掴まれた時とは違い、それの全身が見えることで芯からゾッとする。
 鋼鉄の様なプライド。
 こいつはそれの塊のようなモノだ。
 熱気を持ち始めたそいつの体が動き、大口を開けて滝に襲いかかるも、滝は金縛りにあったように動けない。
 "キサマ等など餌でしかない!!"
 蜥蜴男はその言葉を全身で体現してるようだ。
 そのナイフのような歯が迫る。
  右腕を震わせて、弾のない銃の引き金を引く。
 ガチッと撃鉄が鳴ると同時に、蜥蜴男の身体は向こうの壁まで弾き飛ばされていた。
  目の端に黒い何かが写る。
 ゆっくりと首を向けると、髑髏男が渾身の力で拳を突き出していた。

THE MASKD RIDER REBORN
第一章  再会
最終話 再会
 呻きながら蜥蜴男は再び立ちあがった。 「へっ、チャンスはもう待たないのか?GAIA−1?」  ふらふらと立ちあがりながら言う蜥蜴男を見据え、髑髏男は滝の前に護るように立った。 「クックック、どうやらもう限界が近いらしいな、アンプルはもう無いのかな?GAIA−1!」  引きつった笑い声をだしながらそう言う蜥蜴男は、ジリジリと身体を機械類のパネルに近寄らせた。  滝は倒れた隊員を抱き起こしながら、その行動を目で追う。 「無いようだな・・・もっとも、ここまできたなら苦しみながら死ぬことはねえ、キレイに一瞬で何もかも消して やるからなあ!!!!」  そう叫んだ蜥蜴男はパネルの何かを叩いた。  パンと、小さな破裂音とガラス片が散ると非常ベルが部屋の外、赤銅色のドームのてっぺんで鳴り出した。  はっと蜥蜴男を見返した滝は、「炉を暴走させたな!!」と叫んだ。    * 滝等はあの白い廊下を逆に走っていた。  時間が無い。  崩れた天井にかっかた(おそらく髑髏男がかけておい)ケーブルをよじ登り短縮できたものの、この長い廊下は終 わることを教えてはくれない。  死が迫っているのだ、必死になって走る。 しかし、滝には戻りたい気持ちがあった。  それはまだ、あの       *  滝の叫びと同時に髑髏男が天井を蹴り、蜥蜴男を踏みつけるように蹴りを放った。  が、蜥蜴男は他のモノドモとは違い、破裂せず、髑髏男を撥ね退けて立ち上がった。 「ははははっ!!ムダだGAIA−1!!私にキサマのクラッシャー(破壊)システムは効かん!!なぜなら貴様の 腕や足と同じように、オレの身体には微細強振動筋繊維が張り巡らしてある!!ドップラー効果(共振波消滅効果) でキサマお得意の粉砕攻撃は無に帰すのさ!!」  高笑いをあげながらそう自慢げに語る蜥蜴男はジロッと、弾丸を充填した滝に目を向け「だからテッポーの弾な んかじゃあ\殺せねえんだよ!!」そう叫んだ。  怒り心頭のその瞳は烈火のごとく真っ赤な筋を走らせていた。  滝はギッと奥歯を噛むと、立ち上がり銃を構えた、すると、二人の隊員も同じく予備弾丸を充填した散弾銃を構 える。  それを見て蜥蜴男は歯を向いて、いかにもイラついた様に三人を睨んだ。  その時、スッと三人を制すように髑髏男が立ちはだかり、「逃げろ!!ここから逃げ出せ!!!!」そう叫んだ。  滝は、その声に身を震わせた。  巨大コブラを葬った時も聞いた声だが、あの時とは違いはっきりと耳に響いた。 それはあの、忘れようとしていた懐かしき友の声。  失ったはずだったあの声だ。  打ち震えるように見る滝を見て、髑髏男は溜め息交じりに口を開いた。 「・・・・・・・すまない、滝・・・・オレは本郷だ、本郷猛だ」 「ククク、まさかGAIA−1が滝の知り合い、いや、その様子では友人らしいな。  まさか渡された"シナリオ"どうりとはな」  そう引きつった笑いと共に喋り近付く蜥蜴男。  髑髏男はその蜥蜴男の頭めがけ、ブンッと右腕を振り裏拳をあびせた。  蜥蜴男はそれを受け止め髑髏男を引き込み倒すとするが、髑髏男も左手で蜥蜴男の喉を掴み、押さえつけ様とす る。  対峙した二体の動きが硬直する。  髑髏男は渾身の力で、蜥蜴男を押し「逃げろ!滝!この建物から!!」そう叫ぶ。  しかし滝は、「俺は、まだ、お前がほんとに本郷か、わからない・・・・・・」そう言うのだ。  確かに髑髏男の今の声は、亡き友人本郷猛のモノと同じだ。  だが、あの女、蜂堂時子を目の前にした時の態度、声、加えて蜥蜴男の"シナリオ"と言う言葉。  全てが如何わしく、とても"クサイ"。  そして何よりも、滝はあの時この森の端で、本郷猛の死体をはじめに発見したのだ。   *  まるで夢の中の様だった。  朝靄の中を歩き周り、すっかり冷えきったその死体を見た時は。 たまった朝露に身を沈め、無機質な顏を見せる。  赤き赤銅色の血を水に溶かしながら。   *  フラッシュバックするその記憶。  銃を構えなおす。  それを見た髑髏男は歯を食いしばり、蜥蜴男を壁に押さえつけた。 「証拠が必要なのだな!?」  髑髏男はやや叫ぶ様にそう言い、滝の頷きを見ると「証拠はお前が持っている!それはお前に託した、バイクと "三つの鍵"だ!!!!」そう叫んだ。  滝は震えた。  背広の左内ポケットの中に、確かにそれはある。  自分以外知らぬこと、本郷に託された"三つの鍵"。  それは、あいつの愛車のシルバーのV−RODのキー、愛子の部屋の鍵そして、ロッカーの鍵。  大切なモノだ。 特に、ロッカーの中には"組織"への捜査資料と経緯が記されたデータが眠っていた。 託されたモノだ。  捜査も、バイクのメンテも、愛子を護ることも、あいつに、本郷に託されたことだ。 そして、誓った、全てを賭けて護りやりとおすことを。  滝は静かに奥歯を噛み、銃をしまう。 「退却だ、今すぐ部屋を出ろ!!」  凛とした声で隊員を引かせ「この鍵は、地上で返す!だから、もう一度戻って来い!本郷!!」そう鍵を出し叫 ぶと、踵をかえし部屋を飛び出た。  後で蜥蜴男が制止の叫びをあげ、髑髏男・・・いや、本郷と争うのを無視し走った。  赤銅の空間を抜けるまで。 * 「グワアアアアアァァッ!!!!!」  空気を振動させる巨大な咆哮をあげ、蜥蜴男が本郷を投げ飛ばした。  ガラス窓を突き破り、本郷が赤銅の階段に投げ倒される。  滝等が必死に階段を登るのを目の端にいれ、本郷は手を広げ立ちあがった。 「どけええぇ!!!!」  叫び声とともに大口を開け、飛びかかる蜥蜴男を掴み投げ飛ばした。 蜥蜴男が部屋の壁に叩きつけられると、本郷は素早く飛び、蹴りを浴びせる。 「ムダだぁ!!」  蜥蜴男は咆哮し、本郷の身体を跳ね飛ばし立ちあがると本郷は「させはせん!!これをくらえ!!!!」と叫ぶ と、金切り音を響かせて両拳をクロスさせる様に、蜥蜴男の胸あたりを殴った。  いや、かすった様に見える。  蜥蜴男が呆れた様な目でその拳を見送ると、ボッと全身が炎に包まれた。 「グワアアアアアアアオオオオオオオオォッ!!!!!!!」  炎に包まれた蜥蜴男は、激しい苦悶の咆哮を響かせてのた打ち回る。  本郷は一歩下がると「さすがに炎には自慢の皮膚も意味をなさないだろ?」そう言い、炎に包まれた蜥蜴男の瞳 を見た。  その瞳は疑問と苦悶に満ちている。 「・・・説明が欲しそうだな・・・」  本郷はその原理を喋り出した。  クラッシャー装置は微細強振動装置により、物質を分子分解するモノだ。  それは大気とて例外ではない。  分解された気体は簡単にイオン化し、イオン化した気体は核融合炉が暴走したことによって、この空間一体は過 タービン運動による強電磁波の海になったことにより、強い電解が出来、よって、簡単にプラズマ化する。 さらに、強振動する物質同士が擦れ合い、強い摩擦熱が加わり、これが熱誘導となって、プラズマは熱エネルギ ーに変換される。  そして、着火点の高い特殊合金製の本郷の身体より、着火点の低いタンパク質の蜥蜴男の身体に火が着いたのだ。 結果、蜥蜴男は炎に包まれた。  淡々と原理を語った本郷の姿を見た蜥蜴男は、ゆっくりと崩れる身体を立たせた。 「もう、動けはしないだろう?」  本郷はそう言いマスクを取る。 「蜥蜴男・・・」  素顔をさらした本郷がそう呟くと、ガッと目を見開いた蜥蜴男は、本郷の両肩を掴むと「オレは"D"だ!!!」 そう叫び崩れ落ちた。  人の心を持ち生み落とされたモノだ。 人でもなく獣でもなく、名前すらない。  思えば可哀想なモノだ、今まで葬ったモノも同じだろう。  灰に帰す蜥蜴男、いや、Dを見てそう思う。  本郷は再びマスクを被りなおし、その場から走り去った。 Dの炎はまだくすぶり続けていた。 * 再びあの漆黒の階段を抜け、重機の群れを通り外へと駆け出る。  木々の間を縫って駆け、太い樹木の裏に周ると背を向けて腰を落した。 隊員も同じように他の木の裏に隠れる。  ズンッと、不意に地面が沈むような振動が全身に響くと、激しく波打つ揺れが襲い、音にならない爆音が世界を 満たすと、ズンッと2度目の沈みこむ振動が襲い、再び静寂が戻った。  滝は手を耳から離し立ちあがると、廃屋のあった場所へと向かった。 それは半径数十メトールはあろうかという、落ち窪んだクレータのような状態に変わっていた。 その中央には瓦礫が散乱し、数メーター程の瓦礫で埋まった穴が開いていた。  もは元の地形の面影もない。  この状況では、例え鋼鉄の身体を持ってしても生存は絶望的だろう。  しかし、滝はなぜか"あの時"のような孤独感は感じなかった。  朝日が登り始めた。 エピローグ  白銀色の車が滑るように走る。  緑の多い住宅街を抜け、幼稚園のような建物の前に停める。  その塀には双葉園と彫られていた。  愛子はゆっくりとドアを開け降りると、微笑みながら「ありがとう送ってくれて」そう言い滝を見た。  滝も笑んで「いや、良いさ"俺の務め"だよ」そう言い、背広の左胸あたりをすこし押さえた。 「じゃあね、和ちゃん」 ドアを閉めて、笑みながら手を振り言う愛子に手を振り返すと、車をまた走らせた。 園内に消える愛子をバックミラー越しに見送り、車の速度をあげた。  ふと、ドアポケットに突っ込んだままの、今朝買ったスポーツ新聞を見た。 見出しには大きく"髑髏のマスクライダー、新宿を疾駆する!!"と書かれ、同時に、あの特徴的な髑髏男の写真 が載っていた。 「死んでいたと思う方が、良い人もいる」  そう呟くと首の傷痕が少し疼き、左胸をチラッと見た。 「これ以上、彼女を苦しめる必要はないよな本郷・・・」 滝はそう言いながら前を見なおした。  寒い冬は過ぎ、初夏の日差しが車内を照らしていた。 最終話  再会    了


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