THE
MASKEDRIDERREBORN

第一章 第三章


 滝は美海から取り上げた銃を素早く持ちかえ、あの男の頭に突きつけると、男はその虚ろな瞳をゆっくりと滝に
向けて、顔をあげた。
 滝と互いに向き合う。
  その顔には本郷と同じ、頭から瞳を駆け抜け、顎まで達する傷が刻みつけられている。
 男は滝と目を合わすと、ゆっくりと膝を折り、「・・・なぜ?僕は?」と困惑の呟きを洩らすと、滝はそれに
「お前は誰だ?」と、少し冷徹に問う。
 男は困惑しながらも「僕は、僕は一文字隼人・・・・」と答えていた。

 
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第二章  邂逅
第十話 混濁・覚醒
「はあ、はあ、はあ」  荒いだ息を上げ、滝は本郷の身体を持ち上げようと必死で掴む。  しかし、200キロ近い本郷の身体を持ち上げることは無理に等しい。  滝は、膝を折って座り込むあの男を見て、「おい!一文字隼人とかいったな、お前なら運べるだろ、手伝え!」 そう焦り混じりの声をあげる。  一文字隼人は滝によりはなたれた、マスクへの一撃により記憶を取り戻していたのだが、滝はそれがわかった今 も警戒は解いていない、事実、隼人に銃を向けてから手伝うように言った。 隼人は詳しいことは理解していない、しかし、説明をしたり事情を詳しく聞くよりも先に、本郷を助けるほうが 先だ、それに、美海よりはまだ安全だ、殺そうと殺すまいと。  ちなみに、その美海は今、助手席にシートベルトで縛ってある。  隼人は、本郷の身体を軽々と持ち上げると、車の後部座席に乗せた。 「・・・タキ、カズヤさん、あの・・・」  隼人が銃を突き付けたままの滝に、向きなおして、何か聞きたそうな口調で喋ろうとしたのを、「説明はあとだ、 乗れ」と滝は銃で後部座席に乗るように強制した。  仕方なく隼人は車に乗り、困惑の瞳を滝に向ける。  美海も、呆れた瞳を向けた。   しかし、一番困っていたのは滝本人だった、何故なら本郷をどこに連れて行けば治せるのか知るはずもないのだ。  しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない。  滝は車をスタートさせ、採石場を後にした。    * 振動が身体に響き、身体の感覚が戻り始めた。  体内に装備された生命維持機能と、精神覚醒のアップ系アンプルが自動投与されたのだ、意識が覚醒し始める。  記憶を整理して、自分に何が起きたかを思い出し、今何が起きてるのかを確認しようと、必死に感覚を呼び覚ま す。  やっと瞼が開いた、視覚はまだまだだが、それでもまだマシだ。  薄っすらと見覚えがある。  滝の車だ。 「・・・滝」  絞り出すように出した声。  車が止まる。  滝は気付いたようだ。  わずかに滝が何か言ってるようには感じたが、頭痛にも似た耳鳴りで理解は出来ない。  いや、耳鳴りに似た頭痛か。 「俺、俺のバイクの側に」  その言葉に滝がうなずいた様に見えると、車体が揺らぎ、再スタートしてすぐに止まる。 本郷は朦朧とした意識で、車を降り、自分のバイクらしきものに寄りかかると、ハンドル中央のコンソールを、 記憶に従っていじった。  本郷は振り返ると、滝らしき人影に「これに付いて行け」と言い、バイクのアクセルをひねる。 バイクが走り始めると、本郷は車内に体を埋めて気を失った。  滝の声が遠のいて行く。  次に目覚めるのは何時だろうと思った。 * 「・・・・・・滝」  わずかに本郷の声がした。  滝は車を慌てて脇に止めて振り返った。  本郷の顔はまだ虚ろだったが、何かを伝えようとしている。 「どうした本郷?」  その滝の問いが聞こえたかどうかは不確かだが「俺、俺のバイクの側に」と、本郷は虚ろに答えた。 第二章:第十話 混濁・覚醒      了

 バイクは速く、気を抜けば見失いそうだ。
 滝は再び意識を失った本郷を車に収め、アクセルを開けた。 

 
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第二章  邂逅
第十一話 母校
 並木道を抜け、大通りを避けてバイクは走る。   滝は辺りの景色に、見覚えがあるのに気付き始めていた。  焦りから思い出せはしないが、確かに見覚えがる。  やがてバイクは広い塀に寄るように走り方を変え、その速度を徐々に落としていった。  空が白み始める。  そして、終にバイクはその走りを止めた。  滝はバイクが止まった、目の前にある施設に息を飲んだ。 それは見覚えどころか、確かに記憶にある、道や町に見覚えがあるのも合点がいった。 薄いクリ−ム色と赤褐色で彩られた大きな建物のまわりを、同色の建物が数個囲む。   確かすぎる記憶。  そして、閉ざされた門の前にかかげられたその文字、「城南大学」。  そう、かつて本郷と共に通った学校だ。    * 「何ここ、ただの大学じゃない・・・」  正直、美海はこの得体の知れない連中が、どんなところに戻るか期待していた。  しかし、ここは何の変哲もない大学、しかも、滝は知らなかったような顔をして呆けている。 ふと、誰かが校舎から校門まで向かってくるのが見えた。 「あっ、緑川教授・・・」  明らかに滝は驚いた声をあげていた。  そして、滝は慌てたように車を降りると、校門に駆け寄った。  二人が互いに向き合うと、校門をわずかに開いて、何か話し始めたのが見えたが、車の中では聞き取れない。  だが、その話の中で滝は明らかに驚き、動揺している。  やがて、滝は車に戻ると、本郷を降ろすようにと、後ろの隼人という青年を急かしながら、美海の手に巻きつけた シートベルトを外した。  隼人はおどおどと困惑しながらも本郷を抱え、車を降り、緑川教授と言う初老の男の後に付いて行く、滝も美海に 銃を突きつけて、続けと促す。  美海は仕方なく付いて行くと、校内の中規模な校舎に入った。  少し廊下を歩き、入った部屋は、明らかにロボットの研究をしている施設だった。     *  滝は驚いていた、まさか本郷の協力者が、母校の緑川教授だったとはと。 確かに法学部なのに本郷は、生体工学を必須に選択していたが、ここで繋がるとは滝は思いもしなかった。  だが、生体工学の権威であり、優秀なエンジニアでもある緑川教授に任せれば心配はないだろうが。  今、問題はこの二人だ。  隼人という本郷と同じタイプのサイボーグは味方に引き込めばいいだろうが、美海は難しいだろう。  ここならば死体の処理も容易い。  いっそ、殺してしまうか? 滝は銃を上げた。  美海の顔が強張る。  滝が撃鉄に指をかけた。  だがしかし、「滝さん何を!?」隼人がそう叫んで腕を掴んだ。  滝は舌打ちをすると「離せ!!」と凄みを利かせて叫ぶ。  しかし、隼人は「何があったかはわからないですけど、目の前で人が傷つけられそうになるのは、僕は我慢できな い!!」と叫び腕に力を込めると、ミシッと腕の骨が軋み、掴まれた部分が痺れ、思わず銃を落とした。  隼人は落とした銃を踏むと、掴んだ手を離して「訳を聞かせてください!」そう必死な顔で聞く。  滝は腕をさすり、「話してやるさ、全てな・・・・」そう鋭い目で答えた。  隼人は息を飲んだ。 第二章:第十一話 母校      了

 美海はただ、真っ白な画面に向かって座っていた。
 一文字も表示されていないテキスト画面。
  美海は何度もキーボードに手をのせては、考え離す。
 何故かは、あの突拍子もない話を正式の原稿として提出しようと考え、その原稿を書こうとしたからだ。
 しかし、だからと言って滝やあのイチモンジハヤトと言う青年と交わした契約いや、約束が尾を引いてるわけで
はない。
 だいいち、「命の変わりに他言無用」などと、前時代的な取引に従う気はない。
 だからと言って、全く引っかからないわけではないが。
 それよりも、この突拍子もない話をいかに信じ込ませるかの方が、遥かに悩ませる。
 しかし、こっちも後が無いのだ。
 局に戻ってみれば、つまはじきにされ、2週間の謹慎と1年間の減給処分の辞令をわたされた。
 このまま戻っても、どっかのバカなアナウンサー同様にバラエティーと子供番組だけで生活が終わる。
 だから、それを避けるためにも滝の話したあの話が必要だ。
 もっとも、リスクの高い賭けではある。
 あんな突拍子もない話をどう信じ込ませるかなど・・・・。
 だがしかし、あれは紛れもない現実なのだ。

 
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第二章  邂逅
第十二話 事実
 滝は手近にあった椅子に腰かけ、静かに口を開いた。  始まりは一年ほど前の夏。  滝と本郷はある男を捕まえた。  それは橋村と言う殺人犯だ。  彼は元々は弁護士だったが、自分以外の家族三名を殺して行方をくらまし、見つかったのはそれが起こってから 一月後のこと、半狂乱状態で滝らに逮捕された。   薬物を自ら打ったらしいのだが、それが何なのかどころか覚醒方法すら見当はつかないらしい。  取り調べてみても、ろれつどころか、まともに座ることも出来なくてはどうしようもない、だが、身体検査をし たところ、巧妙に隠された極小さな鍵を見つけた。  その鍵は彼の事務所の隣にあるビルの、ある一室にある廃棄ダクトの鍵だった。  さらにその廃棄ダクトには貸し金庫の鍵があり、その貸し金庫にも更に何かの鍵が。  これを五回も繰り返して終に、駅の配管チェック口の中で、やっと小箱を見つけた。  もちろんその小箱にも鍵がかかっていたが、小箱そのものを壊すことにより中身を取り出したのだが、中身はた だの空フロッピーが一枚。  しかし、問題は「A173KKR」と示されていたボリュームラベルにある。  地道に彼の足取りを辿ってみると、ある秋葉原のジャンク屋にたどり着いた、そして、そこにある「A173K KR」と書かれていた1Gにも満たないハードディスクを見つけ出した。  中身は驚くことに、ある組織の資金図、そう、本郷や隼人をサイボーグにしたあの組織のだ。  いや、正確にはその組織の下の下にあたる一つの組織。   しかし、ここから辿ることによって、大本の組織にも辿り着けると思った。  だが、結果は本郷の死(ただしフェイク)。  そして、滝自身もその前線から遠ざからざるおえなくなった。  だが、それを無視し、単独行動を取り、更に機動隊を無断で出動させて今は謹慎中だ。  しかし、滝は諦めず、本郷の作戦にのった。  それはあぶり出し。  リストに乗っている、組織に関する人間を襲うことで、大本の組織の何かが動くのを期待したのだ。  そう、本郷と同種のサイボーグの群れこそが、その証拠だ。   だがしかし、実際の収穫は何も知らない(覚えてない)一文字隼人と、瀕死の本郷。  そして更に、ペラペラと全て喋らざるおえなくなったこの状態。  最悪である。    そこまで、一気に喋り終えた滝はゆっくりと息を吐いた。  美海や隼人は完全に理解しきれてはいないものの、納得せざるおえないだろう。  なにせ、隼人本人がまさにその証拠そのものだ。  滝はゆっくりと立ち上がり、隼人から少し離れ、二挺目の銃を抜いて美海に「命は取らん、この事は誰にも明か すな」そう脅したが、その目は既に半ば諦めが見えていた。               *  美海はパソコンの電源を落とすと、滝にもう一度会いに行こうと思った。 第二章:第十二話 事実      了

 滝は、大学の前に見覚えのある人間がいるのを見止めた。
 美海だ。
 美海はその裏門に、薄ピンクのベスパ(再販)に跨り、じっとこちらを見つめている。
 滝は呆れたように溜め息を一つし、車をその脇に停め、彼女に歩み向かう。
「なんの用だ?くだらない好奇心で来たのなら帰ってもらう!」
 厳しいく睨みそう言う滝に「・・・相変わらず、厳しい言い様ね」と、少し苦い顔をしながら言い、滝に近づい
た。
「本郷さんて、言ったわね?あの人、その後の経過はどうかしら?気になるから、あなたに付いて行って良いかし
ら?」
 美海の声や表情は冷静を装っているものの、内面ではこの賭けに対しての不安がないわけではない。
 もちろんそれに気付かない滝ではないが。
 しかし「勝手にすれば良い」そう言って大学の中に入っていった。
 一応、美海は付いて行くものの、疑心の目を変えてはいなかった。
 
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第二章  邂逅
第十三話 訪問者
「まだ無理だ」  緑川は滝等の申し出を簡単に断ると、本郷を治療している個室に戻ろうときびすを返した。 「なぜです教授!?本郷の意識は回復してるんでしょう?」  滝はそう言い、緑川の肩を掴み引き止める。  緑川はゆくっりと振り向くと「まだ、人口筋肉の洗浄と第五人口皮膚装甲まで着けただけだ、意識が戻ったのも 皮膚に血液を送らせるためだ、まだ喋るのはもちろん、瞼を開けるのも無理だ」そう言い、滝の手を離して部屋に 入った。  滝がその言葉で表情を、渋く変えるのを部屋の隅で見つめていた美海は、ゆっくりと側の椅子に座る。 「ねえ?あのイチモンジハヤトくんはどうしたの?」  美海が、隼人のことを尋ねるのは当然、本郷と同じサイボーグで、自らの話を裏付ける証拠を欲しているからに 他ならない。  もちろん、ここまでじっと滝の後にただ付いて来たのも、本郷の姿を証拠として捕らえる為だ。 「隼人なら、隣の部屋で教授を手伝ているが」  滝はその美海の思いに気付きながらもそう答える。  というのも、本当のことにせよ、こう言えば美海も諦めはしないものの、一考するだろうと予測していたからだ。  滝も側の椅子に腰を下ろした。                          *  隼人はググッと力を込め、本郷の身体に鉄片を貼りつけて行く。 「別に、滝さんに合わせても良いんじゃないんですか?装甲板もこれで硬質帯に入ったんですから」  そう次の装甲版を貼り付けながら言う隼人に、緑川は「だからといって、話も出来ないんじゃしょうがない」と やや冷淡に言う。  しかし、「でも、それは運動神経伝達態でしたっけ?それを切ってる所為でしょう?それを入れれば、今すぐに でも話したり動いたりすることは出来るんじゃ?」そう隼人が、詰めるように言う。  だが、「運動神経伝達態を切ったのは、痛覚神経と連動しているからだ、この神経を今入れれば、本郷が悶え苦 しむのは明白だろうが」と簡単にいなされてしまう。  しかたなく隼人は「すいません」そう簡単に謝るしかない。  隼人が最後の胸部装甲を貼り付けると「よし、馴染ませるぞ」そう緑川が言い、本郷にフルフェイスの髑髏マス クを被せ、鉄黒い液体の中放り込む。  この鉄黒い液体は、特殊な酸系伝道連帯液で、本郷に着けられた形状記憶有無混合硬質人口皮膚同士を癒着させ、 接合部をゴムと鋼鉄の中間のような質感を持たせ、表面装甲の変化時の強度を保つ為におこなう重要な工程だ。  余談ではあるが髑髏マスクは形状記憶有無混合硬質人口皮膚ではなく、ただの特殊硬質金属で出来ていおり、純 銅でコーティングされてるため酸にも強い。 「これで十時間も置けば良いだろう」  緑川はそう言うと、手術用マスクを取り、この実施研究用ラボから出て行ったのを、隼人はその姿を見送る様に 一瞥すると、滝等がいるラボ内の、緑川の書斎に通じるドアを開けた。                        *  空がその姿を漆黒に変えた頃、グワオウウウムと魔獣の唸り声にも似た、凶暴な排気音を響かせ、この虚空と同 じ、一台の漆黒のバイクが城南大学へと続く道を、異様な雰囲気を醸しだす黒い男を乗せて走っていた。  緑川のラボのみに、その明かりを灯した城南大学の校舎が、男の瞳に映ると、男は嬉しそうに細く笑んだ。  亀裂のような笑みで。 第二章:第十三話 訪問者       了

  深遠の夜空を切り抜き、いびつに笑う三日月。
 その光と同じ白い顔と、闇夜に溶け込むような青黒い衣服。
 男はおもむろに漆黒のバイクから、金属色に鈍く輝く頭蓋骨のマスクを出し、ゆっくりと自らの顔を覆った。
 そして、青黒い衣服を脱ぎさり、その闇よりも黒い肢体を月下に照らし出す。
 その黒鉄の身を。

 
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第二章  邂逅
最終話 邂逅
「久しぶりですね滝さん、美海さん」  そう言いながら隼人は滝の側の椅子に腰掛けた。 「で、どうなんだ?本郷は?」 「はい、いま外装を全て着け終えて、あとは馴染ませるために専用の液体に十時間ほど漬けなければいけません、 その後も洗浄作業などもあるので、実際に会って喋れるのは十二時間ほどかかるみたいです」  滝の問いに正直に答える隼人、その話に美海が混じる。 「じゃあ、朝の六時頃までこの状態?」 「ええ、ですから、今日は出直して、明日また来たほうが・・・」 「いや、俺は残って待とう」  隼人の、その答えを遮る様に滝がそう言いだす。 「あと半日もかかるのに?」 「ああ、悪いか?」 「別にいいけど、私はさすがに帰らせてもらうわ、このままだと今日は収穫は見込めないし」  美海は滝のその言葉に呆れた。 「勝手にすれば良い、もともとお前は関係のないことだ」  その滝の厳しい言葉と口調に、美海は少しムッとした顔をし「ええそうさせていただくわ!」と言いながら、音 を立てて椅子を引いて立ち上がる。  滝はそんな美海を無視するように「一文字隼人、悪いが君のことは一通り調べさせてもらった、もっとも、こん なに時間が経ってからどうかとは思ったがな」そう、隼人を見て喋り出した。  美海はその滝の態度に少々の憤慨感を感じるも、それ以上に”一文字隼人の過去”に興味がいった。  滝は何か手帳を胸元から出し、それを読み始める。  そして、その後ろに美海は聞き耳を立てるように立った。  滝はそれに気付いた素振りも見せず、無言で椅子美海の椅子を引く。  美海は少し驚いたが、素直に腰掛けた。  滝は、それを待ってたかの様に喋りだした。  「一文字隼人、君は専門学校を卒業後、フリーのカメラマンとしてジュニジアの内戦地に出向いて、そのまま行方 不明とある、おそらくその時君はあの”組織”に改造されたと思われる」 「はい、僕もそう思います」  滝の言葉にそう答えた隼人に、滝は二、三度うなずき、また話をはじめる。 「だがな、それよりもひっかかたのは君が、殺人で一度逮捕されていることだ」  見はその言葉にハッとし、隼人を見る。  隼人本人もビクッと身を震わせ、その額を青ざめさせた。 「もっとも、あれは・・・」 「いや、滝さん、そのことは自分で話します」   その滝の言葉を遮って、隼人は唇を噛む様に話し出した。  あの頃、まだ隼人はは十六歳の高校生だった、ただ、空手の有段者で、少しばかり回りの人間より強いだけの。  だけど、高校生くらいの思春期の人間が持つには、十分すぎる力だった。  心が成長しきっていない年代の若者が、その力ですることは一つだ。  それは力の押しつけ。  隼人はその当時、自らを正義だと思っていた。  いわゆる不良と呼ばれる者達を挫き、弱いものを護っているつもり”だった”。  結局、隼人本人も多くの不良同様、力で自分より弱いものを痛めつけていただけなのだ。  もっとも、この年代の多くの者は、持った絶大な何かで全てがまかなえると夢想するのは仕方がないとも言える。  しかし、隼人のやっていたのは力による正義の押し売りだった。  そして、隼人はその間違いを、もっともきつくその身に刻むことになる。  きっかけは簡単なことだ、それは隼人にとっては馴れた出来事だ。  同じ学校の者が、高台の公園で悪そうな連中に絡まれていた。  それを見止めた隼人は、いつもの様に自らの正義に従い彼等を斃したのだが、一人がその高台のフェンスから落 ちてしまった、しかも、隼人に殴られて。  その男は殴られた勢いもあって、首の骨を折り即死だった。  隼人は速やかに逮捕され、鑑別所に送られることになったが、裁判の結果、故意ではなく事故と判決が決まり、 隼人は少年院には入らず、すぐに釈放されたのだが、隼人の負った心の傷は大きい。  それから隼人は空手を辞め、高校を辞め、塞ぎこんだように暮した。  だが、ひょんな事から戦場カメラマンのことを知り、隼人はそれを目指してカメラの専門学校に通うことになる。  が、卒業後彼は単身チュニジアに行き、そして行方不明になり、こうしてサイボーグとして帰ってきてしまう。  自らが、苦しんで決別した”力”を与えられて。  「なるほど、確かに話だけ聞くと故意ではないけど、でも・・・」  美海はその隼人の話に驚し、チラッと隼人の顔を見た。 「いや、事故云々は問題じゃない、お前は」 「はい、”力を持つ事に酔う傾向がある”と言うことですね」  滝の言葉を遮り、隼人が重い口調で言った。 「そうだ、少なくとも、力に支配されてしまう可能性がるのが問題だ」  滝のその厳しい言葉に、隼人が再び青ざめた顔でうつむく。  しかし美海が「でも、可能性だけだし、あれから成長もしているでしょう?」そう弁護する。  だが、隼人はその美海の言葉に「いや、実際のところ、この力を意識がはっきりした状態で使ったわけではない ので、もし、使ったらどうなるのか、自分でも自信が・・・」と自信無げに答えた。 「そうだ、戦闘時の暴走は困る、その可能性がある以上信用はならないと言うことだ」  そう隼人のそれに、追い討ちをかける様に淡々と言う滝の言葉に、二人は無言にならざる終えなかった。                      *  あれから三時間ほども経てしまった。  思わず話し込んでしまったからだ。  美海は、本当ならば夜には家に着いてる予定だったのにと、溜め息を吐き、裏門に向かいキャンパスを歩きぬけ た。  久しぶりに晴れたため、空には月が雄々しく闇夜を切って光っている。  三日月だ。  美海が、視点を月からまたキャンパスに落とすと、何か異質なもの、いや、人を見た。  それは、闇よりも黒い黒鉄の身体と、白い金属色の頭蓋骨。  いや、それに似た何か。  そう、美海は知っている、あの髑髏男。  だが何かが違う。  あの時襲ってきた者達のような機械的な雰囲気や、隼人のような人間味は感じられない。  例えるなら獣。  まるで何かに飢えた獣の様。  しかも、魔獣と呼ばれるような、恐ろしいモノ。  まるで虚そのもの。  例え改造されたからといって、人間がここまで深く恐ろしくなるものかと思うほどに。  ゾクッと悪寒が走る。  と、同時に、美海はラボに戻るように踵を返して走り出した。  それは美海がその姿に、直感的な”死”を感じたからだ。  素人の美海ですら感じる、凄まじいその覇。  美海は必死に走った。  捕まえられれば死。  その直感が走らせた。  しかし、ただ一言”助けて”の声が出ない。  ゆっくりと近付いて来るのがわかる。  助けてと叫べば、ラボにいる滝達に聞こえるだろうが、声が、まるで喉笛をキュッと握られたように出ない。  だがしかし、このまま逃げ走っても簡単に追いつかれるのは明白。  美海は振絞るように、助けて!!と叫んだ。  掻き消えそうなかすれた叫びだったが、彼女にはそれが精一杯、全てこの声に託すしかない。  美海はその叫びと共に、終に倒れた。  音も無くその男が近づくのがわかる。  もう、怖気すら感じない。  感覚は麻痺し、まるで、生きたまま蝋人形にされた気分だ。  焦点を合わすのを、拒否するように、眼球がピクピクと揺れる。  ゆっくりと”それ”の手が、美海の首を掴んだ。  血の気が一瞬で引き、唇が黒紫に変色したのがわかる。       心音は急激に弱まり、指先から血液が後退して行く。 クッと顎を上げられ”それ”が美海の顔を覗き込む。  そして、 「お嬢さん、人の肉の味は知っているかい?」  そう”それ”は優しく尋ねた。  瞬間、美海の鼓動が、鷲掴みにされた様に止まり、全ての感覚が閉じ、音も、視界も、臭いも、肌に触れた”そ れ”の指の感触も、全て遠のいて行く。  だが、遠のいて行く音界に、わずかに破裂音が響いた気がした。 エピローグ 「ねえ、愛子、あの人が、本郷さんが生きてたらどうする?」  愛子は仕事仲間の久美と言う娘と、夕食代わりに居酒屋に来ていた。  そして、久美が発したその言葉に、愛子は激しくその表情を変えて答えた「会いたい」と。  その顔に、久美は「M公園に来て欲しいって、滝さんが」そう言った。 「え!?いつ?」 「明日の0時、時計の前で」  愛子の不思議そうな問いに、そう答えると久美は「もしかすると、本郷さんのことかも」と付け加えた。  愛子はその答えに、明るいはにかむ様な笑みをこぼして応える。  その時、久美の顔がわずかに曇るのを気付きはしなかった。 第二章:最終話 邂逅       了


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