THE
MASKEDRIDERREBORN

第一章 第二章

「本人に聞いてみればいい」
 滝の叫びに男はそう答え、指すように扉を見る。
 それに滝はハッとして立ち上がると、同じようにその扉を見ると、ゆっくりとその扉が開き、牙の生えた、クロ
ムシルバーの髑髏マスクを被った男が立っていた。

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第三章  生
第十話 真実の虚言
それは、あまりにも突拍子もない話ではあった。  平和を維持し守るために必要なこと。  それが、この話の主体だ。  ここ数年間、紛争や内乱、内戦といった大小問わずの、小競り合いが起こってはない。 そう、四年前チュニジアまで延びた、リビアの民族紛争以来戦争らしい戦争はおこってはいなかった。  もちろん、各地で宗教間や民族間のにらみ合いは続き、ゲリラやテロ活動もなくなったはけではないが。  しかし、それでも上辺だけは、確かに”平和”と呼べた。  だが、何十年かぶりに訪れた平穏に、世界中は不安を持ち続けていたのだ。  平和こそ不安。  人間は戦う動物ではないかと、痛感させられるほどに。  だから、世界中の人々はこう言った。 「何を賭しても、この平和を維持しよう」  と。  そして誰かが、それに応えた。  それが国連科学兵器研究機関(UN.CARL)。  その彼等が出した答えは、原因となる因子の排除と、もし起きた時には速やかに対処し、終息させること、そし てそれは、いかなる方法をとっても、確実に完遂させること。  そして、それに答えるため、あらゆる状況において確実かつ、完全に任務を遂行させる兵士が必要だった。  あらゆる状況条件に左右されず、高い戦闘力を有し、使い減りのない兵士。  つまり、必要なのは強さと不死。  しかし、提示するのは簡単だが実現は難しい。  これを実現するために、五人の科学者が集められた。  その誰もが、好奇心を満たすために犠牲をいとわない、いわゆる狂科学者(マッドサイエンティスト)と呼ばれ る者達だ。  そして、彼等が生み出したのが髑髏マスクのサイボーグ達、本郷やこの男だった。 だが、本郷が完全体として生み出されることになったことを機に、その科学者等の研究チームは解散させられる ことになったのだが、その科学者達はあきらめず、その与えられた財力で新たに研究機関を創ったのだが、その行 動はもとである国連機関に反感を得ることになり、その崩壊を願う者達が本郷のテストを兼ねておくったのだ。  そう、滝が追っていた、いや、追わされていたのがこの組織だった。  が、本郷から託された全ての証拠は、改ざんされたもの、すべて組織を追うための本郷の方便。  そして滝も警察機関もそれに踊らされていた。  政府機関の介入は滝を信じ込ませるため、滝の行動は事態を混沌化し、真実を曇らせるため。  そう、滝は、本郷の手によって体よく踊らされていたのだ。                   *  ゴシャア!!  数体の飛蝗男が弾き飛ばされ、壁にぶつかりながら絶命する。  隼人はそのマスクの双眸を、赤黒く煌かせて立ち上がった。  飛蝗男が一気に襲いかかるが、隼人は意に介せず、先ほどとは違い、何の迷いもなくその飛蝗男を叩き殺す。  頭を掴み壁に叩きつけ、足を掴み二つに引き裂く。  無慈悲な殺戮。 それはまるで、機械の様。  隼人の意思は一片も感じられない。  首をはね、頭を砕き、確実に殺す。  飛蝗男共はなおも襲いかかるが、隼人の常軌を逸した攻撃力の前に、なす術もなく殺戮されて行く。  例えるなら高速ローラのように、何もかも飲み込み磨り潰す。  暗い廊下は血の斑でうめられ、その壁面を赤黒く染めて行く。  返り血をまとった隼人は、まるで死神の様。  だが、飛蝗男共もただ殺されはしない。 数体の飛蝗男が羽根を広げ、その中羽根を激しく振動させた。 やがてその振動音が聞こえなくなると、死骸が弾け、壁が軋みながらヒビを走り、そして、隼人のマスクにも、 ヒビが走り始めた。 第三章:第十話 真実の虚言       了
  巻きつく、渦のような空気圧が、隼人の身体をつつむ。
 マスクのヒビがいっそう深くなる。
  隼人は振りかぶると、ジャンプし、天井を蹴って目の前の飛蝗男に向けて蹴りを放つ。
  だが、隼人の身体はまるで何かに気圧されるように減速し、飛蝗男に辿り着けぬまま地に落ちた。
  隼人はうつ伏せのままゆっくりと顔を上げると、床を叩き殴る。
 腕が床にめり込むと低い振動が床一面に響き、その隼人の腕を中心にヒビが無数に走り始め、床が一気に崩れ落
ちた。
 轟音をたてて崩れ行く床。
 そして、それに巻き込まれ、落ちてゆく飛蝗男に隼人。
  落ち行く床の底はまるで、地獄の底のごとき、闇を見せていた。

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第三章  生
第十一話 鷹巳零次
 ドバシャッ!  闇間に水しぶきが上がる。  その床下はどうやら貯水槽になっていたようだ、隼人と飛蝗男はここに落ちたのだ。  飛蝗男等は素早く体制を立て直し、隼人に向けまた、あの超音波攻撃をしようと羽根を広げるも、水が絡まった 翼はうまく動かない。  そのうち、隼人がまた、真紅の瞳を灯しながら立ち上がると、わずかに水飛沫をあげて消えた。 すると、隼人は、一体の飛蝗男の頭を踏みつけて再び現れ、両脇の飛蝗男の頭を掴んで握り潰すと、その飛蝗男 の身体を掴んで、残りの飛蝗男に投げつける。  水面に波を走らせながら飛んで行く、飛蝗男の身体を飛蝗男が避けた時、すでに隼人の姿はそこになく、避けた 飛蝗男が理解出来ぬ様に、その首を上げた瞬間、隼人の脚はその飛蝗男を踏みつけていた。  そして、その両腕を振り、隼人はさらに横の飛蝗男を殴り飛ばし、はるか向こうの壁に叩きつける。  ビシャアアと、何かが飛び散る音が響いてその飛蝗男の絶命を知らせた。  瞬間、他の飛蝗男が隼人の身体を押し倒す。   バシャアッと水飛沫が上がる瞬間、隼人はその飛蝗男の首を掴んで握り潰した。  水飛沫とともに鮮血が舞う。  舞う水飛沫と鮮血の中、立ち上がった隼人のマスクがゆっくりと崩れていき、そして、そのまま隼人は仰向けに 倒れた。  もはや、動く飛蝗男もいない。 * 「本郷、なのか?」  滝の訝しげな言葉に、男は牙の突き出た、白銀の髑髏マスクをゆっくりと取った。 その顔は紛れもなく本郷だった。  本郷はゆっくりと、滝とその男の前に歩む。  そして、本郷は手に持ったマスクを床に落とすと、その男に「久しぶりですね、鷹巳零次さん」そう言った。  その言葉に、滝はうろたえて、その男を見た。  なぜなら、その名は滝や愛子、そうあの施設にいた者にとって、懐かしく、そして忘れたはずの名だったからだ。 *  もう、十五年も前になる。  しかし、ノスタルジアなどと言うものは感じはしない。 むしろ、吐き気のするような、むかつきがある。  それと言うのも、その当時彼等が体験していたのは、社会の裏切りと非難だからだ。  全てに見放され、追放された。  もちろん愛子はそんなことはない。  だが、滝達と共にいることで、同じ扱いを受ける。  無視か、哀れみか、あるいは悪意。  だが、それに負けぬように生きる。  正面から。  だが、そんなものをねじ伏せ、まったく違う”流れ”の中に生きていた者がいた。  自分達よりも一、二年上の人間だ。  同じ所にいて、同じ空気を吸ってはいたが、その存在は異質だった。  そして、幼い滝達にとってはそれは憧れとなりうる者。 それが、鷹巳零次。  かつて実兄のように感じた男。  そして、憎しみを感じた男。 第三章:第十一話 鷹巳零次       了
  その男を現すなら黒。
 しかも固体に張り付いた色ではなく、空に浮かぶ黒。
 手をかざせば、その指先すら見えないほどの闇。
 齢十二にしてなぜそのような闇をもつのか、彼は何も語らなかった。
 鷹巳零次は。

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第三章  生
第十二話 キンダーガートン
  男は、強さを生きる証とした。  闘い続け、体躯や力の差を超え、勝ち続けることを求め、憎しみや栄光を満たすためではなく、闘うことを目的 とし、より強き者を、自らの力と技と知で、ねじ伏せることを極みとした。 そのストイックな姿勢を、同じ境遇の幼い滝たちが憧れたのは当然だろう。  だが、その接し方は、優しさや慈悲はまったく皆無。  彼は滝たちを相手にせず、ただ放っていた。 だが、幼い男の子だった滝等は、彼の後について行くと訪れる危険に、胸を躍らせた。 だけれども、その危険を愉しむためにはリスクがつく。  そして、そのリスクに足を掴まれたとき、彼の闇が見えた。  助けを求める者に、悪意でかえし踏みにじる。  向けられた憎しみすらも悦びとし、その闇を濃くした。  彼の周りには闇が満たす。  その闇を滝達は恐れだし、憎んだ。 *  男はゆっくりとそのマスクを取った。  冷淡な、鋭い瞳に細い輪郭、オールバックの黒髪。  その顔は成長はしていたが、滝の記憶にある鷹巳零次の顔だ。  深い闇を映した瞳。  見まごうはずもない、あの闇だ。 「何であんたが、何のために?」  そう問う滝は、汗をかいていた。  じっとりとした脂汗を、その額一面に。  男は、鷹巳零次は滝の問いにただ笑んでいた。 「変わらないさ、滝、その男が求めるのはいつも同じ、闘いだ」  零次に変わって、本郷がそう答える。  零次は、ゆっくりと部屋の端に向かうと「そうさ」そう言い、マスクを床に捨てた。  カンッと音を立てて転がるマスク。 「では本郷、なぜ俺が滝だけをここへ招いたと思う?」  零次はゆっくりと振り返りながらそう、本郷に問うた。  滝は本郷を見る。  本郷は何か、わかっていた顔をしていた。  滝は零次の話を思い出した、自らを煽動し、利用していたのは本郷であったことを。  本郷は一歩前に出ると、一つ溜め息をし「必要なんだろ、お前の組織が、俺達と同じように、サイボーグのため に創られた人間が、もう一人」そう、答えた。  滝はその言葉に、ゾクリとした驚愕が走った。    * 「なぜ愛子を助けなかったんだ!?」  幼い滝は泣きながら叫んでいた。  両の手には、愛子の血がべっとりとついている。 「あなたなら出来たはずだ!零次さん!!」  その叫びに零次は応えようとはしない。  その姿にガッと、飛びかかろうとする滝を、本郷が押さえて言う。 「むっだだよ滝、あの人はそんな優しさを持つ心をもってはいない、あの人にあるのは、ただ闇だけだよ」  と。  その本郷の言葉に、滝はゆっくりと肩を落とした。  本郷は滝の肩をはなすと立ち上がった。 「あなたは憎しみすら嬉々として受け止めている、なぜです?あなたの闇は、虚はなんなんです?」  そう、問う本郷に、零次はゆっくりと振り返ると、笑んでいた。  亀裂のような笑みをして。  そして、言った「そう求められて生まれたからだ、俺もお前達も」と。 第三章:第十二話 キンダーガートン       了
 ガクッと首を落して、美海は眠りから覚めた。
 いつのまにか、うたた寝をしてしまっていたようだ。 
 美海は小脇のバックから、コンパクトを取ろうと手を伸ばした時、バックにしまった、小さな便せんを思わず見
た。
 隼人からの手紙だ。
 届いてから二月も経つ、あの事の顛末が書かれた手紙。
 書き表せないのか知らないのか、ただ淡々と悲惨で凄惨な顛末が書かれた手紙。
 迷いながら、苦しみながらペンを走らせたことが如実にわかる手紙。
  全てが終って、二週間が経って送られてきた手紙。
 書かれてた事の裏に何があったのか、そして、あの山のような謎の真実はなんだったのか。
 この手紙からは、それらを読み取ることは出来ない。
 だけども、それをもう知りたいとは思わない。
 謎は謎のまま、知らないことがいい場合もある。
 忘れることは出来なくても、思い出さないように過去に置いてくる事は出来る。
 あの好奇心も、あのわだかまりも、あの恐怖も。
 今はもう思い出したくはない。
 美海はコンパクトを開け、目元の化粧を直し、車を降りた。
 まだ少し早いけどいいだろうと、そして、ADから台本を受け取りさらっと流し見をする。
 いつもと変わりない内容。
 だけど、前のように焦りは感じない。
 少しずつやっていけばいいと、今は思う。
 もしかすると、あれが自らの出世心を戒めてくれる、いい機会だったのかもしれない。
  美海はそう考え、少し自嘲気味に笑むと、いつものようにカメラの前に立った。

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第三章  生
第十三話 真実
 背筋が凍るほど冷たく、滝の血の気が一気に引いた。 「どう言うことだ?」  絞り出すような声で、そう二人に問う。  言い出した本郷がそれに目を伏して応えると、笑みながら零次が「簡単なことだ、つまり俺もお前も本郷も、こ のために創られたんだ」そう言い、自らのボディーを指差した。 「・・・俺は、本郷とは違って、慎重に考え、物事を冷静に判断して行動を取れるほど大人じゃない、だから、本 郷に利用されていたってしょうがないし、嫌な気分はするけど、それで怒るほどこいつとの仲は安くないさ、だけ ど、だけどさ・・・・・どう言うことなんだよっ!?本郷!!!」  滝は握っていた銃を叩きつけ、そう叫んでいた。  だが、本郷は答えない。  ただ目を伏せる。 「説明が必要のようだな、滝」  二人を見ていた零次は、そう言うと語り出した。 ただ淡々と。                    *  人間の身体というのはよく出来ている。  現代では、病気や自己で身体の一部を失った者は、人工物や他人のものと取り替えることがあるのだが、それに は自の免疫能力が災いし、せっかく移植した臓器が機能しないことが多々あるのだ。 これを防ぐため、移植者には免疫抑制剤を定期的に投与するのだが、これにはリスクがある。  それは免疫力低下による、二次感染症だ。  本来、人の身体というものは、異物が入ればそれを排除しようと白血球が異物に対して、防衛攻撃にでる。  その対応は素早く、強力だ。  だが、移植者の場合それが災いし、移植臓器の機能不全や、中には免疫反応により血流が激しく変化し、ショッ ク死にいたる場合もある。  それゆえ、それらを防ぐために二次感染による危険性を冒してまで、免疫抑制剤を投与するのだ。 しかし、そ れでも効果はたかが知れている。  そのうえ、移植者は生きてる以上、その免疫抑制剤を摂取しなければいけない。  だが、もし、免疫抑制をしなくてもいい臓器があったら。  また、人工物を入れても、免疫反応が起こらない人間がいたら。  サイボーグのような、身体の八割以上を機械化することが出来るのでは?  だが、それをおこなう者はいないだろう。  方法がないわけではない、受精した卵子の免疫遺伝子を組替えればいいのだ。  だがしかし、倫理観から言えば、それをおこなうことが本当にいいのか、踏みとどまるものなのだが。  彼等は違った。 第三章:第十三話 真実       了
 人間の身体を、人工物に置きかえる事は可能か?
 答えはYESである。
 ただ、肉体と言うのは良く出来ているもので、自らの細胞から形成されたものは異物とみなされ、免疫プログラ
ムにもとづいて白血球が攻撃をはじめてしまう。
 そうなると、組み込んだ人工物にも何らかの影響がで、酷い場合にはショック死にいたる場合もある。
 しかし、そのような危険を冒しても、身体を人工物に取りかえなければいけない人がいる。
 いわゆる臓器不全や、身体欠損者だ。
 これらの人々にとって、人工臓器を用いるのは仕方がないことと言えるが、免疫プログラムにとってはそれも攻
撃対象でしかない。
  だがそれは、自らの自己防衛機能が、命を削ることだ。
 これに対抗するためにも、免疫抑制剤で白血球の動きを弱くするのだが、こうなると次は他のバクテリアやウイ
ルス、細菌類から身体を守れず、結局は命を縮めることになる。
 そこで、この攻撃を肉体だけではなく、移植した人工物にもおこなわないようにする方法を考え出した。
 一つに、人工臓器から特殊信号を発し、生体のように白血球に錯覚させる方法だ。
 これは有効であったし、この新臓器を造ることは容易ではあった。
 だが、彼等のように、身体を八割以上人工物に換えるためにはいささか役不足である。
  ではどうするか?
 ならば、一から造ってしまえばいい。
 それは狂気の答えだった。

 免疫遺伝子を、分裂を始めた人の卵子から取り出し、その遺伝情報に肉体信号だけではなく、固有物質信号に対
しても攻撃抑制をする情報を植えつけ、またその卵子に戻し、育成させた。
 この卵子が育ち、やがて人となったのが本郷や鷹巳零次、そして滝だ。
 彼等が気がつけば施設で育てられた理由もここにある。
 つまり、彼等には親などいないのだ。
 人工的に生みだされた人間なのだから。

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第三章  生
第十四話 目的
 滝の手から、銃が力なくするりと落ちた。  痛烈な悪寒が、身体に驚愕を知らせた。  それもそうだろう、自らがただ”戦うためだけに生みだされた”と知ったのだから。 「あのイカレタ科学者の集団は、どうやら組織としては弱小らしい、だから資金を得るために一つ戦争でもはじめ ようと考えてるようだ、そうなれば大枚はたいても技術力を買おうとする輩が出てくると思ってるようだ、その為 に、最小の人員で争いの火種を仰がなければならない、どうやら滝、俺達はそのふいご役に選ばれたらしい」  零次はそう言い、硬直している滝の肩をポンッと叩き、後ろの、壁の端末に向かった。 「ああ、それから、なぜお前たち三人をここに集めたのかと言うと、滝の奪取をスムーズにするためだ、滝自ら来 てくれるようにするために、本郷を殺させる」  滝はその言葉に、うな垂れた頭を上げ「ふざけるな!!」そう叫んだ。 「お前の言葉が、話が真実でも、いや、真実だからこそ俺が本郷を殺すことなどありえない」  その滝の言葉には、確固たる意思が見えた。  だが、その言葉を受けても零次は「だから、愛子もここにいるのさ」そう言い、端末のキーを一つ押す。 すると、不意に眩暈が滝を襲った。  何か、以前感じたことのある感覚だ。  目の前がもやをかけたように曇り、滝は膝を落として崩れた。 * ううと呻くと、隼人は目を覚ました。  深遠の様な闇に、水が波打つ音が響く。  常夜灯のような赤い光が天井からさし、わずかに隼人の周りを照らしていた。  隼人は頭を振り、まだ朦朧とする意識を立て直し、天井を見上げる。 一つ上の天井は崩れさり、鉄筋コンクリートの支柱が剥き出しになっていた。  隼人は立ち上がると振りかぶり、一気に飛んだ。  崩れた天井を越え、さらに常夜灯の光る天井を手で押し、もとの通路に降り立つ。  するとそこには、吐き気をもよおす程の、飛蝗男の死骸がいたるところに散らばっており、隼人は思わず後退り をした。 だが、あれから何時間経ったかわからず、滝のことが心配であった隼人は、その死骸を踏み越え、一路滝を探し に通路を走りだす。  そして、いくつかの扉を調べ、終に、滝の入っていったドアの目の前に立った。 第三章:第十四話 目的       了
 脂汗が垂れ落ち、感覚が定まらず、痛烈な感覚の波が身体を襲うが、知覚にもやがかかり、それを理解できない。
 催眠状態であるのはわかるのだが、それに抗うことが出来ない、この催眠波はあまりにも強力すぎるからだ。
 それは本郷も同じで、身体を動かすことが出来ず、ただ立ちつくしているだけのようだった。
 ―本郷を殺せ―
  突如、その言葉が聞こえ、体が自分の思惟とは無関係に前を向き、懐から摸造のコルトを抜いた。
 身体が震えているのに、銃の照準だけは本郷の額を確実に狙っている。
 抗う。
 だが、親指は撃鉄をたおし、人さし指はトリガーホールに向かい関節を曲げる。
  ブッ!
 唇から鮮血が飛び、一時的に知覚が戻り、その一瞬で指をトリガーホールから抜いた。
 だが、すぐに知覚がとおのく。
 凄まじい精神力の綱引き。
 痛みに全神経を集中させるが、その痛みすら理解できなくなりはじめていた。

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第三章  生
第十五話 殺せ
「何という精神力だ」  零次は、滝のその行動に感嘆した声をあげた。  唇を噛み切り、大量の鮮血をたらす滝。  これほど強力な催眠波の空間で、自我を保ち続けていることすら脅威的だ。  本郷すら立っているのがやっとと言う状態で、滝は抗っている。  このままでは、滝はその引き金を引くことはないだろう。  だが、零次はあきらめはしない。  滝の耳元に近づき、なおも「殺せ」と 命じる。  だが、滝の瞳はそれを必死に拒み、身体もそれに従い、その指をけしてトリガーホールにかけようとはしない。  零次は表情を険しく変えると、ゆっくりと立ち「強情な、ならば殺しやすいようにお前の憎しみを押してやる」 そう言った。 「滝、お前は本当に本郷を親友と信じているのか?」  冷徹な瞳で滝を見おろし、話しだす。 「滝、お前は本当に本郷を憎んではいないのか?  滝、お前は本郷を羨ましく持ったことはないのか?  滝、お前は本当に本郷を信じているのか?  滝、お前は本郷がいなければと、考えたことはないのか?」  呪文のような零次の言葉。  これに、滝は細かい痙攣で答えるが、その指をトリガーホールにかけはしない。  だが、零次が「滝、お前は本郷から愛子を奪いたい考えたことはないのか?」と、言った時終にトリガーに指を かけた。  だが滝は、全身を震わせ、自分の指をなおも制した。  血飛沫が、滝の口から飛ぶ。  滝の荒いだ息が響き、静寂が支配した。  零次は驚したがうつむき、笑んだ。  そして、「滝、そこまでお前が粘るなら、切り札を使おう」そう言い、愛子の眠るベットに近づき「滝、この為 に愛子がここにいいるのだ」と言いながら、愛子の耳元に口を近づけた。 「さあ起きな、本郷が帰ってきった」  その言葉が、催眠空間の愛子の耳を打った。   そして愛子は、その言葉に応えるように、ゆっくりと瞳を開く。  零次は亀裂のような笑みを浮かべていた。                 *  気がつけばずっと側にいた。  いつも優しく抱きしめてくれた。  彼は私を護ってくれていた。  本郷猛。  いつからだろう、彼を好きになったのは?  いつからだろう、愛して欲しいと思ったのは?  いつからだろう、愛しはじめたのは?  いつからだろう、ずっと側にいたいと思ったのは?  だけど、彼はもう。  今も思い出す、あの顔を。  あの、冷たい顔を。 第三章:第十五話 殺せ       了
 愛子はゆっくりと身体を起こし、立ち上がり、そのままふらふらと歩き始めた。
 その瞳には意思がなく、ただ黒が写っているだけだ。
 やがて、その瞳に本郷の顔が写りこむと、はらはらと涙がこぼれ、愛子はその足を本郷へ向けていた。
 その瞳には、本郷以外写らないだろう。
 だが、彼女の意思は操リきられているわけではなく、気持ちを押されていた。
 本郷への想いを。

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第三章  生
第十六話 想い
 愛子はほとんど、両親の営む、児童養護施設である双葉園で育った。  そこは滝と本郷が同じ時期に育った場所であり、三人はまるで兄妹のように暮した場所だ。  小さな養護施設であり、それほど子供がいるわけでもなかったから、余計にそのように育ったのだろう。  だがその関係も、時が過ぎれば変わってゆく。  例えば思春期の頃。  身近にいる少し年上の青年に憧れを感じ、恋を知る年頃。  身体機能、学力共に優秀であるが、ただの優等生とは違い寡黙で、威圧感のある青年。  そして、一番身近にいて、絶対でないにせよ、護ってくれると信じられた青年。  兄愛の思いは憧れに。  そして憧れは恋に変わった。    *  急速に視覚が認知できず、視界全ての現実味が消えて行く。  愛子の姿と本郷の影だけがぼおと写る。  その間が徐々に詰まり、愛子が本郷に近づく度に脳が痺れ、思考が澱む。  ―本郷を殺せ―  現実味のない声が脳に響く。  ―殺せば愛子はお前のものだ― 脳の痺れは最高点に達し、こめかみが軋んだ音と共に激痛をあげる。  涙がとめどなく流れ、口角から垂れた唾液混じりの血も感じなくなっていた。  首から下の感覚が、完全に失われ、視界も完全な情報を伝えるほど機能していない。  現実味のない言葉が脳内を乱反射するのが間直に見え、愛子の姿が本郷と重なった瞬間、全てが白に変化する。  そして、渇いた破裂音が響いた。 * 薄っすらと、幸福が脳裏を染めた。  だけど、その思いに浸る事は出来ない。  身体を動かす事を考える。  脳は痺れはじめてるが、正気を保てなくなる程ではない。  滝を止めなければいけないからだ。  思考が微妙にずれている。  自らを呼び起こす。   愛子がゆっくりと近づく。  脳の痺れが広がる。  滝を止めなければ。  愛子が近づく。  脳の幸福感が悦びに変わり、正気が崩れた。 全てを捨てたあの時。  鬱ろいだ想いが浮かぶ。  愛子の顔が間直に見え、その手が肩に延びる。  悦びに脳がおぼろげに埋もれ、愛子の顔意外見えなくなった。  そして、ゆっくりとその手を絡め、顔を近づける。  その瞳は虚と潤みが交差し、黒の光が自らの瞳を写していた。  それが心を奪う。  ゆっくりと唇を近づける。  互いに瞳を閉じ、その唇が重なる瞬間。  渇いた破裂音が響いた。  脳が突如呼び起こされ、感覚が急速に戻る。  そして、するりと愛子の絡んだ腕が、肩口から抜け落ちていった。 第三章:第十六話 想い       了
 ゆっくりと、ただゆっくりと、愛子の腕が抜け落ちてゆく。
 しっかりと絡み合っていたはずのその腕が、ゆっくりとその腕から抜け落ちる。
 喜びの微笑を浮かべた、その顔が遠ざかり、愛子の身体はゆっくりと膝を折った。
  すとんと落ちた彼女の身体から、真紅のしずくが花弁のように舞っては四散していった。

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第三章  生
第十七話 心、想い、魂と死
 ゆっくりと正気がもどる。  だが、現実感はなく、全てが淡い夢のように滲んでいた。  飛び舞う真紅の花びらの垣間から、滝の姿が滲んで見える。  滝は一つ何か呟くと、黒い右手を上げた。 「やめろ!!」  理解できなかったが、本能的に叫んでいた。  渇いた音がゆっくりと滲んで響いた。 *  滝の瞳は、いつの間にか涙がひいていた。  現実味がなく、滲んだ夢の世界。  だが、ずべてが現実である事は理解していた。  愛子の姿がゆっくりと視界から消え去るように、下へ下へ崩れてゆく。  その姿はまるで、枯れ落ちる花のよう。  それを示すように、真紅の飛沫が花弁のように舞っている。  その白昼夢が脳を打ち、あらゆる思い出がフラッシュバックをはじめていた。  ずるうと、脳内が正気と狂気に剥がれはじめていく。 そして正気がゆっくりと脳内のイドに落ち、黒く落ちくすんでいった。 「ただ俺は愛子を護りたかっただけだったんだ。  ただ俺は愛子の側にいたかっただけだったんだ。  ただ俺は愛子に幸せでいて欲しかっただけだったんだ。 ただ俺は愛子に笑顔でいて欲しかっただけだったんだ。 ただ俺は愛子を愛してただけだったんだ。」  滝はゆっくりと、その右腕をこめかみに上げていた。  ただ枯れ落ちてゆくように崩れ、本郷の足に絡んでいた愛子の姿を瞳に写して。                    *  鮮血がゆっくりと舞い上がる。  まるで舞い散る花弁のような、その真紅の華麗さに、零次も思わず笑みをうかべた。  だが、その笑みが一瞬にして驚愕に変化する。 思いもがけないことだ。  零次はすぐさま端末に走り、催眠波を止めるコマンドをタイプする。  だがしかし、その行動も遅く、渇いた破裂音が室内にまた響き渡り、催眠波が静かに消えた。 *  突如、隔離されていた正気が叩かれるように脳に戻った。  しかし、本郷はその瞳を暗くくすませ、涙をゆっくりと落す。 膝を折り愛子を抱きとめ、その鮮血で身体を塗った。 魂が抜け落ちてゆくように、その瞳が黒くくすんで光を飲み込んでゆく。  本郷はただ深く目を閉じ、その身体を横たえた。  そして、本郷は涙が急速にひいた瞳を開き、ゆっくりと立ち上がり、その瞳はもう一つの悲しみを見つめる。  それは落ちかけ、黒く黒くくすんで、血をその黒に飲み込んでゆき、その影がただ、魂を深く哀悼して泣いてい た。 「・・・・なんたることだ」  零次の呟きが響く。  零次はゆっくりとその影に歩み寄り、朱に染まった床を見下ろしていた。  本郷はただその光景を見つめている。  不思議と涙は流れはしない。 だが、激しい心の痛みがいつまでも、いつまでも、その背を切り裂いていた。  ゆっくりと視線を落す。  朱の床が見える  滝は、朱の海に眠っていた。 第三章:第十七話 心、想い、魂と死      了

最終話

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