THE
MASKEDRIDERREBORN

第一章 第二章 第三章
  滝は虚ろな瞳で呟き、その手に力なく握られた銃を、ゆっくりとこめかみにあてた。
 鮮血の花弁の中、本郷がただその姿を凝視しているのが見える。
 零次は驚し、催眠波を止めるが、その引き金はすでに引かれていた。
 渇いた音が響き、滝の手から力なく弾かれた銃が、血煙と硝煙をあげて滝の身体だと共に地に崩れてゆく。
 二つの鮮血が、床を朱に染めた。

THE MASKD RIDER REBORN
第三章  生
最終話 決着そして、
「これで俺の役目も、爺どもの計画も一応は終えた、本郷、お前の目的どおりな」  鮮血に染まった床で、零次がそう言う。  本郷は瞳をつぶり、奥歯を強く噛むと、その顔を上げて零次を見据えた。 「じゃあお前は、これからどうする?」  その本郷の問いに零次は「どうもしないさ、私は闘えればそれでいい」と答え、その腕をスッと本郷に向け構え る。  そして、「本郷、本心では、私はお前を滝にくれてやるのは勿体無いと思っていたよ」そう言い加えると、零次 の両下腕から細いナイフが跳ね起きた。                        *  鷹巳零次の最大の目的は闘いだ。  斗って、戦って、闘い続け、より強い者と闘い、屠ることを永遠に続ける。  それが彼の悦びであり、生きている最大の証なのだ。  それは、戦闘本能を満たすだけに生まれてきたものの様。 死肉と鮮血の道を歩み、死骸の山の頂で、なおも戦い続けることを求める。  その姿、まさに”戦闘鬼”。                   *  ゴガッ! 互いの拳がぶつかり、壁際まで弾かれあう。  戦いの女神に抱かれたように、零次の瞳は恍惚の色を見せている。  本郷は、その額から一筋の汗を流す。  零次からくる、その殺意のプレッシャーは、今まで闘ったもののどれとも違うからだ。  鋭利で冷たい、無機質な刃物のような殺意から一変、麻布を巻きつけるようにゆっくりと締め上げ、受けるもの に余裕すら感じさせる不気味な殺意。  まるで闘いの誘いをかけてるようだ。 ジリジリと間を詰め合う。  零次の瞳の光が揺らぎ、右腕のナイフから金きり音を響かせ、本郷の首を襲った。 本郷はそれを状態を仰け反らせて避けるが、零次は振りぬいた状態から左腕のナイフで、突き上げるように本郷 のわき腹を狙う。 だが、本郷は仰け反った姿勢のまま体重を後ろにかけ、一回転してそれを回避しつつ、右の裏拳で零次の頭を叩 き潰そうとその腕を振る。  しかし、零次は本郷と同じように、その振りかぶった状態から体重を移動させ、一回転しそれを避け、右腕のナ イフで再び本郷の首を襲う。  素早い。  流石に、本郷も回避が間に合わない。  だから、本郷は振り抜いた腕に体重を任せ、右肩落ちに身体を止め、そのまま腕を振り上げた。  その拳が、零次のナイフを叩き折る。 だが、右の拳を振り抜き、再び左腕のナイフで本郷の脇を狙う。  この反撃を、本郷は予想出来ていた。  だがしかし、無理に攻撃をおこなった為、とても回避は出来ない。  だから、そのまま床に倒れた。  零次の左腕は空を切り、本郷はそのまま回転し、数歩下がったところで立ち上がると、跳んだ。 本郷は天井を蹴り、踏みつけるような蹴りを零次に向け放つ。 「効かん!!!」  零次は叫び、左腕のナイフを振り、その本郷の足を狙う。  ガシッ!  互いの攻撃がぶつかり、一瞬止まる。  零次のナイフが、本郷のブーツの底を切りはじめた。  零次の瞳が笑む。  だが、  バチイッ!!!  火花が走り、何かがスパークする。  そして、ガカアッと凄まじい光芒が瞬いた。  次の瞬間、二人は弾かれていた。          *  プラズマブラスト。  高アンペアの電離体を極所放電し、高プラズマに変換する。  そして、不安定なプラズマは光と熱にエネルギー変換され、凄まじい破壊エネルギーを生む。  本郷の足にはこれを起こすため、高アンペアのバッテリーが新たに仕込まれ、そのブーツには放電装置が埋め込 まれている。  今、零次に放ったのはこれだ。 凄まじい光と熱、それは爆発エネルギーとして放出された。  この力は凄まじく、高い耐久力をもつ、サイボーグの装甲もひとたまりもない。 事実、起き上がった零次の左腕は、肘から下が完全になくなっていた。  だが、放った本郷も、ただではすまない。  直接攻撃を放った、右足の関節は疲弊し、歩く事も困難だ。 零次と本郷は互いに見据え、歩みよる。  次が最後の一撃だと、互いに感じ。      *  零次は、その左腕からの激痛を、楽しみながら立ち上がった。  立ち上がると、本郷も立ち上がる姿が見える。 その右足は明らかにダメージを負っていた。  一撃で全て決する。  直感がそう伝えた。  身震いするほどの、戦闘の悦に笑み、零次は本郷に歩みよる。  本郷も同じように歩み寄り、拳を握った。  静寂が互いの間を支配し、そして、                  *  全ては一瞬。  零次と本郷は互いに拳を繰り出し、そして、互いのその胸を突く。  拳全体にひびが入り、指の関節は砕けるも、互いに力を緩めることなく、渾身の力でその拳を突きたてた。  そして、互いの胸の装甲は砕け、その拳が深々と突き刺さる。  互いの鮮血が床を塗り、静寂が再び互いの間を支配した。  相打ちのように見えたが、徐々に本郷の顔色が青く変わる。 「・・・・本郷、どうやらこの勝負は私の勝ちのようだ、私はお前の人工心肺を潰した、わずかにこの身体のおか げでまだ息はあるが、やがてそれも終わり、死ぬ」  零次がそう言うと、本郷は口角から一筋の血を流した。  だが、「そうかな?」青ざめた顔でそう言った本郷は、零次の肩を左手で掴むと、笑んだ。  そして再び、あの強い光芒が瞬いた。 「なっ!!!」  零次が驚した叫びをあげると、本郷の突き立てた拳から閃光が広がり、あの光芒が全てを支配した。                         * 「やられた、まさか、まさか腕にまで仕込んでいるとは、緑川教授といい、滝といいお前の周りの人間には、全く してやられるよ」  零次は上半身だけでそう言うと、本郷を見据えた。  右手を失い、そう言う零次を見て、本郷はただ壁に寄りかかり、うな垂れる。  死が近い。  本郷はそう感じ、滝と愛子の遺体を見た。  零次の瞳の色が消える。  零次も限界だ。  その時、突如扉が開かれた。 エピローグ  隼人がシャッターを切ると、また空気が深く振動し、爆音が遠くで響いた。  二ヶ月たった今も、今だ爆撃が収まらない。  パキスタン北西部で起こった、イスラム分派の本土侵攻が、テロから戦争に切り替わり、早や半年。  戦争を止めるため、国連軍が実戦投入され三ヶ月、そして、アメリカ軍が介入を決め二ヵ月が経とうとしていた。  隼人は戦場カメラマンとしてここにいる。  来てもう四ヵ月になるだろう。  だが、彼の写真は今だ数えるほどしか売れない。  と言うのも、隼人が撮る写真はみな、直接的であり、とても凄惨的なものだからだ。  しかし、隼人はかつてあの扉を開けたときのような、悲惨で凄惨な光景は目にした事はない。  たしかに、確かにここには地獄と言えるものが広がっている。  だが、あの扉を開けたときの、猛烈な悲しさ。  ここには残酷で凄惨な風景が広がるも、あそこまで、やるせない悲しみを感じはしない。 わずかに息のあった本郷に、最後に聞けたあの悲惨な話。  遺体とは言え、滝や本郷を置いてこなければいけなった、あのやるせない思い。 だが、今は少なくとも自らの、目の前の範疇は手を伸ばす事は出来る。 それだけで今、隼人は満足だ。  傷ついたものを助けることも、死んだものに祈る事もできる。  もう、あの時のように、ただ悲しむ以外できないと言うことはない。 それだけで、まだ救われる。  だからあの後、隼人は緑川教授に頼み、その力を削減した。  なぜなら、あの瞳はここでは見えすぎ、あの耳は聞こえすぎ、あの腕はあまりにも届きすぎるからだ。  全てを救えるわけではない。  しかし、過ぎた力はやるせなさを生むだけで、永遠にわだかまる以外ない。 だから、今は手の届く範囲で良いのだ。  人を救える距離は。 第三章:最終話 決着そして、       了
あとがき
第一章 第二章 第三章
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